01 I Remember Now
■5月7日
赤い砂が窓を叩く。クラクションが聞こえる。ニコはルービックキューブを弄りながら、窓の外に視線をやった。
白いピックアップトラックが停まっており、母のパメラが面倒そうに近づいていくのが見えた。
しばらく後、再度クラクションが鳴った。今度は長く、太く。ニコは体を起こし、クロムブックを閉じる。外へ出ると、せきこむようなエンジン音を立ててダコタが走り出すところだった。
パメラが何やら叫びながら、コーラの瓶を投げつける。瓶はダコタにかすりもせず、アスファルトに数回バウンドすると見えなくなった。
「どうしたの、母さん」
「どうもしてないわ。あのクソトラッカーがビリーの名前を出しやがったのよ」
「ああ、それで」
「ナンバーは見えた?」
「4ZB218、ネバダ。4年前に一度だけ見たよ」
「オーケイ、次に来たら教えるのよ。タンクに犬の小便を入れてやるわ」
「わかったよ」
ニコは苦笑いで話を打ち切った。
ビリー・ケイスは彼の父だ。姓は違うけれど、詳しい話はパメラは教えてくれたことはない。実際に結婚していたのかどうかも。
ニコが知っているのは結末だけ。つまり、ギャンブル好きのヤク中が、借金を作って行方不明になったところまでだ。
その後はどうなったかわからないが、パメラは彼が今でもコヨーテの腹の中にいると信じている。
雲が日差しを遮り、肌にまとわりつく熱が和らぐ。
「ニコ、何か食べる?」
パメラはため息をついてそう言った。
いつものハムのサンドイッチの横に、パメラはドライアップルを二切れ添えた。
パメラの後ろめたさから来る行動なのは明らかだったので、ニコはそれに気づかないふりをして、素直に喜んだ。
彼としてもランチにおまけが付くのは歓迎だったし、別に今の暮らしに対して母を責めるつもりはなかったから。
それよりも、とニコは話題を変えようとする。彼にとって顔もおぼろげな父親の話題よりも、もっと重要なことがあった。
あと二週間で16歳の誕生日がやってくる。人目をはばからずに運転できるようになる年だ。田舎の高校生にとっては大事件だし、パメラも久しぶりにバーで飲めるわと喜んでいた。
ニコは物心ついてからずっと、この土地以外を知らない。彼にとっては乾ききったロードサイドがすべてだし、海だって見たことがない。
店といえば数マイル先のマーケットくらいだ。
ビリーの件は確かに彼らに(というか、パメラに)とって古傷ではあったけれど、それでも致命的な話ではない。
二人は日々のゆっくりした生活を愛していたし、なるべく今を続けようと努力をしていた。
ベガスまで150マイル。ルート66沿いの小さな休憩所は、アリジゴクのように今日も客を待っている。




