終わる責務
残り2話
デグニテの身体が崩れ、黒い泥のように溶け出した肉体は地面へ広がり、ゆっくりと蒸発していく。
魔力だけが残り続ける。
不気味なほど静かだった...
ルストは腰をついてデグニテが蒸発する様子を近くで見届ける。
――勝った...。
そう思った瞬間だった。
『―――違う。』
『勝ったのは私だ。』
胸の奥が警鐘を鳴らす。
ルストは顔を上げた。
デグニテのようなものが空にうごいていた
巨大な魔力の塊の中に、崩れた眼や口が浮かんでいる。
輪郭も曖昧でただそこにいるという事実だけが植え付いている。
まるで夜空に浮かぶ天体のようだった。
『素晴らしい』
「......」
言葉が出なかった、生物でも魔族でもない。
あれはもう別の何かだった。
『私は肉体を捨て、概念として存在している。』
『これならばもうお前を殺す気など無い。』
『好きに失せるがいい。』
ルストは残った最後のナイフを抜く。
そして全力で投げた。
一直線に飛んだ刃はデグニテを通り抜ける。
何も斬れず何も傷付かずまるで霧を相手しているような無謀な感覚。
『まだやるつもりか?』
次の瞬間。
空間が沈んだ。
『 神の失墜 』
地面が軋み、城壁が砕ける。
空気そのものが押し潰されている。
魔力に重力を乗せて落としている。
「っ......!」
魔力を押し返したいがこちらからは触れない。
身体の内側に魔力が到達し、筋肉が裂け、骨が軋み、視界が滲む。
限界とともに地面が崩壊し意識が落ちていく。
――――
どれほど時間が経っただろう。
意識が戻った時、薄暗い地下にいた。
瓦礫の隙間からわずかな光が差している。
呼吸をするたび肺が痛み身体もほとんど動かない。
だが、そこにあった....
ヴァーダクトが。
石床へ突き刺さったまま静かに眠っている。
近付こうとする度に雷光が走る。
ヴァーダクトに触れないためだ。
血を吐きながら立ち上がる。
足は震えている....
それでも前へ進まなければならない。
穴を見上げるとデグニテがいる。
ルストは手を伸ばした。
「....ヴァーダクト」
小さな声が剣に届く。
「俺に力を貸せ...!」
「俺が全てを裁ち斬る!」
その瞬間、ヴァーダクトが光り、剣が震える。
ヴァーダクトは呼応し、俺の手元に一直線に飛ぶ。
柄を握った瞬間、激しい光が城全体を埋める。
『まさか――
あの剣を取り戻したのか』
デグニテが危機を理解する。
無数の魔法が空を埋め尽くす。
『 芙蓉焙 』『 伊邪那美の呻き 』『 幾氷の武器 』『 蒙拒の風 』
――――
デグニテが持つ全ての力...
全てを放ち、空が崩れ、世界が壊れる。
それほどの魔法だった。
ルストはただ一直線に飛ぶ。
前だけを見ていた。
ヴァーダクトがその全てを斬り伏せる。
この一撃だけは届かせる...
例えこの一撃でヴァーダクトが砕けるとしても...
ヴァーダクトの意思と俺の意思が重なり、魔を裁つその力を振り切る。
「終わりだ」
ヴァーダクトを振り抜き、世界が静止する。
次の瞬間、巨大なデグニテの身体が真っ二つに裂ける。
デグニテの身体が光になって崩れていく。
同時に空を覆っていた雲が割れた。
世界そのものが解放されたように空が晴れる。
ヴァーダクトの刃は砕け、無数の光となって空へ消えていく。
どうやって着地したかは覚えていない。
気づいた時には仰向けになって星を見ていた。
こうして俺の――いや、
勇者ルストの物語が終わった。
残り1話




