今際を歩む
デグニテは崩れた瓦礫にもたれかかったまま動かない。
砕けた城壁から風が吹き込み、土の臭いと焼け焦げた臭いが混ざる。
俺は息を整えながら近づく。
石畳には血が垂れ、 腕は痺れ、 肺が熱い。
――だが、終わりだ。
あと一撃...
そう思った瞬間、
『 天照 』
身体が空に引き寄せられるような感覚とともに自身の真下に影ができる。
空気が裂け、魔力が電気に変わる。
直後、白い閃光と轟音が身体を飲み込んだ。
だが雷は俺に届かなかった。
光の柱から俺が姿を現した時、デグニテがゆっくりと立ち上がった。
冷や汗が滴る顔、それでも笑っていた。
「使ったな……抹消魔法を……」
嫌な感覚...
次の瞬間、 デグニテの魔力が周囲へ広がる。
『 万華氷 』
石畳が凍り、デグニテが氷の結晶に囲われる。
壁が白く染まり、空気そのものが凍りついた。
氷柱が地面から突き出し、凍結が広がる。
俺は後方へ退き、氷を避ける。
だが、その回避先へデグニテが踏み込んでくる。
拳を躱して反撃する。
だが腕を止められ地面に押し付けられる。
凍った地面が目の先に迫る。
必死に抵抗するが首を捕まれ逃げ出せない。
突然、凍った地面が砕け、氷片が宙へ舞う。
デグニテが困惑し、力が緩む。
その隙に蹴りを入れて脱出する。
デグニテは後退し、攻撃を警戒している。
氷柱が崩れ、 無数の粒子となって周囲へ散っていた。
長く維持できなくなったのだろうか......。
静かにデグニテのもとへ歩み始める。
「我々がこの地に降り立ってから幾度も勇者が現れ、絶滅の危機に瀕してきた。」
「お前は善のつもりか?」
デグニテが問う。
「わからない....、だが俺はこの運命から逃れられない。」
「それが力を持つことへの代償だからだ。」
互いが踏み込み、拳と拳がぶつかる。
骨が軋む。
互いに避ける余裕すら減っていた。
殴る、殴り返される。
デグニテの蹴りが脇腹に食い込み、視界が揺れる。
それでも止まらない。
「ところで――」
デグニテが笑う。
「氷の粒子を吸ったな?」
その言葉の直後、喉に違和感が走る。
「....っ......!」
息が冷たく、吐いた息が白く染まる。
肺が痛み、喉の奥が凍りつくようだった。
呼吸する度に内側から身体が軋む。
デグニテは理解していた。
砕け散った粒子が肺を壊死させることを。
呼吸する限り、 少しずつ身体を壊していく。
咳き込むと喉に血が絡まる。
デグニテが拳を振るい、俺も拳を振るう。
互いの攻撃が直撃し、意識が飛びかける。
デグニテの拳が俺の頬を砕き、俺の拳がデグニテの脇腹へめり込む。
互いに身体の限界を理解している。
だが、 どちらも止まれない。
「何故だ...!何故人間にここまで粘られなければならない!」
俺は全身の力を振り絞り、 右拳を振り抜いた。
デグニテの右顔面へ直撃し、砕け飛ぶ。
俺は潰れかけの喉で魔法を使う。
「 回...復... 」
喉や肺、骨の痛みがやわらいでいく。
「何故...、俺が勇者だからだろうな...」
デグニテの身体はゆっくりと倒れ、動かなくなる。
...終わった。
そう思った瞬間、デグニテの身体から魔力が溢れ出す。
黒く、 禍々しく、 まるで怨念のような魔力だ。
傷口を塞ぐように噴き出し、 周囲の空気を歪ませていく。
「.........遂に....」
砕けた右顔面もまた同様に魔力が覆う。
「....遂に....私は死を超えた....」
その奥で黄色い瞳孔だけが、 ぎらりと光っていた。
「後は貴様を殺すだけだ...。」




