執念の死闘
魔王の一言で空気が変わる。
....来る。
そう思ったときには、もう遅かった。
視界から、魔王が消える。
真上から強烈な一撃が放たれる。
反射で身を翻す。
直後、衝撃。
魔王の拳は俺が立っていた地面を抉っていた。
当たっていれば、終わっていた。
距離を取る。
呼吸は乱れていない。
だが——
理解していた。
他の魔族とは、違う。
「どうした。動かないのか?」
嘲笑するような低い声。
すぐ前にいる。
速い。
踏み込む。
拳を振るう。
躱される。
そのまま、腹部に反撃。
重い。
身体が浮く。
木に叩きつけられる。
立つ。
間に合う。
——炎。
炎が蛇のようにうねりながら襲いかかる。
全て躱せる範疇だった。
「身体は鈍っていないようだな。ならばこうしよう。」
「重力魔法」
突然身体が重くなる。
全身に圧がかかる。
膝が沈む。
重力。
動きが鈍る。
魔王が距離を詰め拳を振るう。
一度躱すも次の拳が迫っている。
躱せない。
顎に強い衝撃が加わる。
更なる猛攻。
崩れる。
だが、倒れない。
視界が揺れる。
拳を振るうが距離を取られた。
芸が無い。
「また炎か...」
しかし、炎は俺を避け村人を狙う。
身体が勝手に動いていた。
熱い。
肌が焼けたようだ。
遅くなるなら予想しながら動け――。
見逃すな。見えるはずだ。
動きを。
軌道を。
自分に言い聞かせる。
「……慣れてきた。」
口に出ていた。
次の一撃を、躱す。
踏み込む。
打つ。
入る。
手応えがあった。しかし、
まだ、浅い。
距離を取られる。
「なるほど。」
魔王は笑み、牙が剥き出る。
次は——拘束。
身体が止まる。
動かない。
見えない力が、全身を縛る。
——折れる。
骨が、軋む。
痛み。
だが、そんなこと、どうでもいい。
――守れるなら。
奥歯を噛む。
力を込める。
身体が、悲鳴を上げる。
それでも——
動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。動け。
喉の奥から、声が漏れる。
「——ァ"ァ"ァ……ッ」
唸る。
押し潰されながら。
無理やり、前へ。
拘束が軋む。
魔法が砕ける。
踏み出す。
ナイフを投げる。
魔王が、視線を向ける。
一瞬。
それで、十分だった。
距離を詰める。
背後へ。
叩き込む。
全力。
骨ごと、貫くように。
衝撃。
魔王の身体が、大きく歪む。
入った。
だが——
触れられる。
次の瞬間。
視界が崩れ、歪む。
立てない。
見えない、
聞こえない...。
幻覚。
分かっている。
しかし、解くことはできない。
——終わった。
そう判断した瞬間。
自分の腕に、噛みついていた。
皮膚を引きちぎる。
激痛。
意識が、戻る。
現実が、繋がる。
魔法が解ける。
魔王の動きが、一瞬止まる。
その隙に——
打つ。
貫いてやる。
魔王と目が合う、魔王は咄嗟に顔を庇った。
「がぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ"!!」
手応え。
俺の拳は魔王の脇腹を貫いていた。
止まる。
互いに、動かない。
呼吸が荒い。
身体が、限界を訴えている。
分かる。
これ以上は、危険だ。
向こうも、同じだろう。
視線が合う。
沈黙。
「……本当は、ここで殺したかったがな」
魔王が、額に汗をかきながら笑う。
「ここは引いてやろう」
空気が揺れる。
気配が消える。
いなくなった。
しばらく、その場に立っていた。
動けなかった。
俺は安堵と疲労で力が抜ける。
膝が崩れる。
視界が暗くなる。
倒れる。
意識が沈む。
最後に思った。
——まだ、足りない。
――剣さえあれば...。
そこで、途切れた。




