遭逢
わずかな記憶を頼りに魔王城を目指して歩いていた。
どれくらい進んだのだろうか。
日も暮れ始める頃、少し離れた所叫び声が聞こえた。
木々を掻き分け、人を探す。
子どもだった。
魔物に追われている。
考える必要もない。
身体が、勝手に動いていた。
距離を詰める。
魔物が振り向く。
遅い。
拳を振るう。
それで終わった。
魔物は動かなくなる。
子どもが、震えながらこちらを見る。
怯えている。
……当然か。
自分でも、少しそう思った。
沈黙が続いた。
「……大丈夫か」
声をかけてみる。
子どもは小さく頷いた。
「……助けてくれたの?」
子どもは泣きそうなのを堪えながら尋ねる。
「……そうだと思う」
それしか言えなかった。
子どもは食料を探しに村を出た所、魔物に遭遇したそうだ。
「ほんとは村から出ると怒られるの。危ないから。けどみんな食べ物なかったから。みんなに食べ物あげたくて...」
君は偉いなんて言葉を俺が言っていいのだろうか?
ただ魔王を倒すということしか決まっていなかった。誰かの為でも何でもなく、ただの復讐のような動機で動く俺が。
子どもに連れられて、村へ向かった。
人がいた。
生きている人間が、そこにはいた。
村人たちは俺を見て、ざわめいた。
警戒。
当然だ。
だが、子どもが何かを伝えると、空気が変わった。
「子どもを助けて頂きありがとうございます。」
長老らしき人から礼を言われる。
服を渡される。
食べ物を差し出される。
そこまでの事はしていないと遠慮するが、
「ではせめて衣服と今日泊まる所を用意します。」
と言われた。
埒が明かなそうだったので受け入れた。
朝日が昇り、村を出ることにした。
身体はかなり疲れが取れた。
思えば都市を訪れるまでは野宿で、村までは日中歩きっぱなしだった。
寂しいがここにいる理由はない。
それに——
足は、止まらなかった。
村の外へ出る。
そのときだった。
違和感。
空気が、変わる。
重い。
静かすぎる。
さっきまで晴れていた空は曇天となっていた。
足を止める。
気配が、一つ。
いつからいたのか分からない。
だが、そこにいる。
前を見る。
——いた。
黒い髪が、風に揺れている。
長い。
布を重ねたような衣服
足元には、軽い木の音を鳴らす履物。
人の形をしている。
しかし——
目が、違う。
黄色く光る瞳。
縦に裂けた、爬虫類のような瞳孔。
そして、額。
角が、伸びている。
理解する。
あれが、何か。
言葉にする必要はない。
身体が、勝手に構えていた。
だが、動けなかった。
動けば終わると、分かっていた。
視線が合う。
その瞬間、確信する。
こいつが——
魔王。
静かに、口が開く。
「目覚めた感想を聞こうか、勇者よ」




