瓦礫に埋もれた記憶
——しばらく歩いていた。
多分、街があるはずだ……。
風が吹く。
乾いた空気が、肌を撫でる。
人の気配は、まだない。
さっきまでの戦いの感触が、まだ残っている。
鎧も骨も砕く感覚。
何故自分には力があるのだろうか。
分からない。
ただ、違和感だけが残っていた。
剣が、なかった。
そもそもどんな剣だった?
あれだけ自然に手を伸ばしたということは、使っていたはずだ。
それも、日常のように。
なのに、ない。
それだけじゃない。
俺が触れた武器は、壊れた。
あの剣は、投げただけで砕けた。
耐えられなかった。
——俺の力に。
そう考えるのが、一番自然だった。
……なら、今までどうしていた。
考えかけて、やめた。
答えは出ない。
しばらく進むと、開けた場所に出た。
——街だった。
……いや。
違う。
そこにあったのは、瓦礫だった。
崩れた建物。
砕けた石。
道の面影すら、残っていない。
草木が絡みつき、かつての形を歪ませている。
人の気配は、どこにもなかった。
俺は立ち止まった。
足が、止まっていた。
理由は分からない。
だが——
ここを、知っている気がした。
この景色ではない。
もっと別の。
人がいて。
声があって。
光があった。
そんな“何か”が、重なって見えた。
……すぐに消えた。
何も思い出せない。
だが、一つだけ分かる。
これは、壊れた後だ。
....時間が、経ったのだ。
長い時間が。
……あのとき、俺はそれを理解してしまった。
世界は、もう元には戻らない。
拳を握る。
力が入っていた。
だが、それが何に対してのものなのかは分からなかった。
怒りか。
後悔か。
それすら、曖昧だった。
——俺は、何のために戦っていた。
また、その問いが浮かぶ。
守るためか。
誰かのためか。
分からない。
だが。
もう一つだけ、はっきりしているものがあった。
魔王。
その言葉だけは、消えていなかった。
理由は分からない。
だが、それを倒さなければならないと、分かっていた。
少しずつ、思い出してきている気がする。
黒く長い髪に黄色く光る爬虫類のような瞳孔、長く伸びた角、笑むと剥き出る牙。
俺は魔王を倒すために旅をしていたのだ。
瓦礫の中を歩き、そして抜けた。
振り返ることはなかった。
——あのときは、まだ気づいていなかった。
それが、過去を完全に捨てるということだったと。
霧がかった記憶を頼りに魔王城の方角へ向かって歩き出す。
——魔王を倒す。
それだけが、今の俺に残された生きる意味だと思った。




