生存戦争
デグニテの拳を受け止めた瞬間、腕の骨が軋むような感覚が走る。
その拳の重さは技術でも狂気でもない、純粋な“力”だった。
俺はすぐさま懐からナイフを抜き、デグニテの喉元へ突き立てようとする。
だが、
「遅い。」
腕を掴まれ、景色が反転する。
磨かれた石床へ叩きつけられる寸前、身体を捻って衝撃を逃がす。
それでも肺の空気が押し出され、呼吸が詰まった。
ナイフが手から離れ、硬い床を滑っていく。
デグニテがそのまま俺を踏み潰そうと迫る。
足を降ろす瞬間、すぐさま転がって回避する。
石床にひびが走り、粉塵が舞い上がった。
視界が白く霞む。
だが次の瞬間、粉塵の中から黒い影が飛び出す。
咄嗟に足蹴を両腕で受け止め、重圧で靴底が石を削った。
押し返すように蹴り返すとデグニテがわずかに後退した。
だが表情は変わらない。
「なぜ魔族を殺す?」
まるで問いかけるかのような静かな声だった。
「人間にとって脅威だからだ。」
「成る程...」
デグニテはゆっくりと息を吐く。
「これでは種族の存命をかけた戦争だな。」
一瞬空気が止まり、魔力が揺らいだ。
『 炎 』
正面から炎が迫る。
熱風で髪が揺れ、皮膚が焼ける感覚が走る。
「―抹消魔法!」
炎の構築は崩れた。
だが、わずかに肩と頬が焼ける。
炎が掻き消えた瞬間には、既にデグニテが拳を振り下ろしていた。
俺は低く滑り込み、その股下を抜ける。
床を転がっていたナイフを掴む。
振り向き様に拳がふりかかる。
避けることを断念して腹部へナイフを振るう。
デグニテの腹に傷が走る。
だが浅かった...
だが同時に衝撃が脇腹へめり込み、骨が軋む。
ナイフは耐えきれず折れた。
砕けた刃が床へ落ち、冷たく高い音を響かせる。
「フッ...」
デグニテが鼻で笑う。
『 風 』
身体が浮きあがり、2階ほどの高さまで身体が持ち上がる。
次の瞬間には窓へ叩きつけられていた。
身体が窓に張りつき、透明な板に亀裂が走る。
「まだだ...」
デグニテが手をかざす。
『 風 』
窓が粉々に砕け散り、俺の身体はそのまま外へ放り出された。
空へ浮き、眼下には魔王城が広がっていた。
屋根へ着地しようとした瞬間、上から影が落ちてくる。
デグニテだった。
胸ぐらを掴まれ、そのまま急降下する。
『 氷 』
凍てつく魔力が皮膚へ食い込み、身体が凍り始める。
「....っ!」
「反発魔法!」
魔法がデグニテの手を弾く。
そのまま落下し、屋根を突き破る。
瓦礫や木片が周囲へ飛び散り、そのまま建物内部へ叩き落ちた。
崩れた木材の中、咳き込みながら立ち上がる。
食卓だ。
長机、椅子、燭台。
何か使えるものは...
その天井を突き破り、デグニテが降ってくる。
床が揺れる。
「魔法盾で良くなかったか?」
俺は沈黙を貫く。
目の前のテーブルを蹴り飛ばし、デグニテが片腕で叩き割る。
その隙に背後へ回り込み、ナイフを突き刺す。
後3本...
肉を裂く感触がする。
だが、
「そうか、雷で使ったのか。」
こちらを見下ろし、嘲るような声で呟く。
『 氷 』
ナイフごと凍る。
瞬く間に部屋全体へ氷の結晶が広がり始めた。
壁や床、机までもが白く染まっていく。
逃げ場が狭まり壁に追い込まれる。
すぐさま拳を叩き込むが受け止められ、そのままデグニテの拳が顔面へ直撃した。
視界が揺れ、壁を突き破る。
石壁を貫通し、中庭へ投げ出された。
上を見ると壁に空いた穴からデグニテがこちらを見下ろしていた。
拳が振り下ろされ、我に返って避ける。
『 雷 』
雷光と轟音が空に広がる。
雷が降り注ぎ、石畳が爆ぜ、破片が飛び散る。
デグニテが攻めてくる。
俺を吹き飛ばした地点へ正確に雷を落としてくる。
「ー魔法盾!」
雷が弾け、光が散る。
デグニテの目がわずかに見開かれた。
「もう回復したのか。」
次の瞬間、デグニテの表情に笑みが零れる。
「だが――」
一気に距離を詰めてくる。
「その直後に攻めてしまえばいい!」
拳も蹴りも全てが速い...
だが見える。
集中して全てを研ぎ澄ます。
世界が鮮明に見えて拳の軌道が読める。
踏み込んで腹部へ渾身の一撃を叩き込む。
重い感触とともにデグニテの身体が吹き飛び、城壁へ叩きつけられる。
さらに押し込み、城壁に亀裂が走る。
城壁が崩壊し、石片が散る。
デグニテの身体が一回り外周へ落下した。
「やるじゃないか、勇者ルスト。」
だがその声と笑みには、わずかな怒気が混ざっていた。




