完成された処刑陣
「――精神魔法」
その声が響いた瞬間だった。
視界が歪む。
空と地面の境界が崩れ、平衡感覚が消える。
立っているのか倒れているのかも分からない。
耳鳴り、吐き気、声。
『お前のせいだ。』
『お前が負けたから滅んだ。』
『お前が封印されたから人類は死んだ。』
怨霊のような濁った声が頭の中に直接響いて止まない。
時間感覚すら曖昧だった...
何秒経ったのかも分からない。
ただ罵声だけが終わらない。
.....受け入れたくない。
だが、どこかで理解してしまっている自分がいた。
――それが嫌だった。
「――抹消魔法」
瞬間、頭の中が静まり、感覚が戻る。
その時にはもう、スティルフィスが目の前まで迫っていた。
拳を反射的に躱す。
そして反撃へ踏み込む。
「――爆発魔法」
ヴァレッドの声。
踏み込んだ先の地面に魔力が走る。
爆発で足が焼け、衝撃で体勢が崩れる。
「――精神魔法」
まただ...
感覚が歪み、声が響く。
『結局成し遂げられないんだ...』
『なぜ助けてくれなかった』
『人を犠牲にしておいて...』
....違う。
違うはずだ。
――だが否定しきれない。
スティルフィスが再び迫る。
拳の速度は少し鈍っており、限界が近いことを示していた。
だが、今の俺には正しい情報が分からない。
視覚も、聴覚も、触覚も、魔力探知ですら嘘が混じっている。
――ならば全部使うしかない。
俺は目を閉じ、呼吸を落とす。
風、殺気、筋肉の動き、地面の揺れ、魔力。
その全てを重ねる。
眼を見開いた時、その全てが鮮明に見えているようだった。
スティルフィスが踏み込む前に身体が動いていた。
奴の拳を紙一重で避け、反撃を加える。
スティルフィスが驚いたように目を開き、俺の拳を避けながら距離を取る。
その瞬間、
「――拘束魔法」
ディレの魔法が身体を縛る。
「ヴァレッド!」
声と同時に爆発魔法。
周囲が煙に包まれる。
熱と土煙で何も見えず魔力すら乱れている。
ヴァレッドの表情筋が緩む。
「終わったか。」
だが、俺が煙の中から飛び出す。
スティルフィスの背後に周り、全員が固まる。
傷はほとんど増えていない。
「...なぜ......」
スティルフィスの声が震える。
俺は代償で魔法の使用不可時間を短縮した。
「抹消魔法か...!」
拘束された瞬間に抹消を発動、煙に紛れて回避していた。
スティルフィスが即座に反撃する。
スティルフィスの拳は頭へ直撃する軌道を描いていた。
「――反発魔法」
拳を弾き、体勢が崩れる。
その先にはヴァレッドが仕込んだ爆発地点がある。
俺はスティルフィスの胸ぐらを掴み、真下へ叩き落とす。
轟音と爆炎が周囲を包み、地面が吹き飛ぶ。
俺も巻き込まれ、熱と衝撃が全身にわたり、肉が裂ける。
「――回...復魔..法..」
焼けた身体が修復される。
その瞬間だった。
精神魔法が一瞬だけ揺らぐ。
研ぎ澄まされた感覚がイルジオンの位置を捕らえた。
枯れ木の森の奥だった。
俺は地面を蹴り全速力でイルジオンの元へ駆け出す。
イルジオンが焦ったように魔法を唱えようとする。
その前に——
ナイフが喉へ突き刺さり、魔力が噴き出す。
そのナイフは村を襲った魔族のもの。
俺はイルジオンを見下ろす。
「返すよ、そのナイフ」
そう言って頭を潰す。
精神魔法が途切れ、ヴァレッドの周囲の魔物とディレの魔物の統率が崩壊する。
ヴァレッドの顔が歪む。
焦りと怒りが混じり、理性が崩れ始めていた。
ヴァレッドが爆風で飛び、俺に迫る。
振り向いた時、後ろにヴァレッドがいた。
両手をかざし爆発が起こる。
煙で視界が塞がれ、ヴァレッドが俺を見失う。
その背後へ回り込む。
だが、
「――拘束魔法」
ディレの魔法で身体が止まる。
「逃げなさい!ヴァレッド!」
「うるせぇ!!」
ヴァレッドが爆発魔法を放ち、直撃する。
俺の身体が吹き飛び視界が流れる。
気づけば元の地点まで戻されていた。
ディレの方角を見ると代償用の魔物はもういない。
自分自身を削って魔法を維持している。
重力魔法も弱まり、拘束ももう連発できない。
俺は踏み込む。
ディレが何かを言おうとしたが構わず拳を叩き込む。
ディレの身体が崩れ落ちる。
「貴様ァァ!!」
ヴァレッドが絶叫する。
地面へ両手を叩きつける。
「――爆発魔法!!」
大地がひび割れ、広範囲へ魔力が走る。
その瞬間、爆発が起きた。
直前に飛び上がり被弾を回避する。
だがヴァレッドは空へ手を向けていた。
「――爆発魔法!!!」
無数の火花が流星のように飛び散った。
接触した瞬間、小規模な爆発が起きる。
空中で逃げ場がなく身体が焼ける。
同時にヴァレッドの魔力が乱れている。
「...使いすぎだ。」
俺は空中で身体を捻り、ヴァレッドへ迫る。
その瞬間――
「――爆発魔法……」
ヴァレッドに魔物と同様の魔方陣が浮かんでいた。
「――!」
轟音と共に全てが飲み込まれ、爆炎が空高く立ち上る。
周囲に 熱と衝撃が広がる。
しばらくして、爆炎の中から出てきたのは——
俺だけだった。
魔法盾が爆発を防いでいた。
風が吹き焼けた更地が広がっている。
もう、四天王の気配はない。
残るのは
――魔王だけだ。




