迫る鋼壁
俺は村で戦いの準備を済ませ、荷物を背負った。
「村の皆さん、エルダ、本当にありがとう。」
それだけを伝え、村を去る。
誰も引き止めず、俺の背中を押してくれた
俺の生きる意味のために。
魔王城へ続く道を歩く。
やがて、数日前に魔族の大群と戦った激戦区跡へ辿り着いた。
地面は抉れ、木は焼け焦げている。
そこら中に崩れた武器が転がっている。
そこには魔族の気配も、魔物の気配もなくただ静穏だった。
しばらく歩き続け魔王城が見えてくる。
そのときだった――
直感的に強さが分かるほどの気配。
左側から馬のような速さで何かが迫っている。
咄嗟に身体を捻り、
直後、拳が振り抜かれた。
こいつが危険であることを本能が訴えかける。
拳の軌道へ腕を差し込み、力を横へ流す。
だが勢いを殺しきれない。
地面を滑る。
止まる前に、相手はもう迫っていた。
追撃が来る....。
そう頭で反応している間に拳は振り抜かれ、目の前に迫っている。
反射的に拳を躱し、反撃に移ろうとした瞬間、相手が距離を取る。
「久しいな、勇者ルスト。」
「……どこかで会ったか?」
褐色の肌。
蒼く、爬虫類のように縦に割れた瞳孔。
無表情、
だがその眼には、 獣のような野心が映る。
――四天王。
そのうちの一人、暴力のスティルフィスだった。
「生きていたのか...」
自然と口から漏れた。
「まさかまたお前に挑めるとはな。」
スティルフィスは軽口を叩くように言いながら踏み込んでくる。
右手正面から、
左手下から上、
回し蹴り....
止まらない連撃――
俺はそれを捌きながら、一瞬だけ腕を掴む。
踏み込み、腹へ一撃入れる 。
鈍い衝撃音が響く。
スティルフィスの身体が勢いよく吹き飛び、背後の枯れ木をなぎ倒した。
手応え的に即死ではないだろう....
それでも行動不能くらいにはなるはずだ。
「自己犠牲か何かか?
お前一人じゃ止められ――」
土煙の中、スティルフィスは立ち上がっていた。
「止められないんだろ?」
スティルフィスが一歩ずつ近づき、蒼い眼が土煙の中から現れる。
「ならさっさと殺してみろ。」
そう言ってスティルフィスは笑った。
俺は奴へ向かって踏み込む。
真正面にスティルフィスの拳が突き出される。
低い姿勢で拳を躱す。
腹へ渾身の一撃を叩き込もうとした。
だが、
その間に拳が割り込んでくる。
...速い。
反撃の瞬間を潰された。
俺は攻撃を中断し、回避へ移る。
無理にスティルフィスは追わない。
ただ無策で足止めに来るなんてあり得ない。
魔力探知で周囲を探る。
木々の奥や岩陰から魔物が集まってきている。
しかも全方位から...
何かを始める気なのは間違いない。
....時間をかければ不利になるだけだろう。
そのうえこいつは固い....
勝てないわけではない。
先を急ぐためだ。
「......仕方ない。」
荷物へ手を伸ばし、1本のナイフを取り出す。
激戦区の辺りで使えそうな武器を探してきた。
スティルフィスがそれを見る。
「刃物か……。」
口元が歪む。
「いいだろう。」
余裕そうに笑っていた。




