課された責務
目を開けた瞬間、見知らぬ天井が見えた。
反射的に身体を起こす。
隣にはエルダが今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「エルダ....。」
戦いでの負傷が嘘のように思えるほど身体は痛むことがない。
だが、視線を落とした瞬間、身体中に傷跡が見えた。
それは地獄のような戦いが現実であったことを突きつけていた。
「ここは....」
銀色の髪は少し乱れ、目の下には隈ができている。
ずっと起きていたのだろう。
「エルダが助けたのか....」
「....私と村の人達がね」
扉が開く音がして振り向くと村人が数人入ってきた。
「目が覚めたか。」
年老いた男が安堵したように息を吐く。
「...ご迷惑をおかけしました。」
「私達は運んだだけだ。 手当ては彼女がやった。」
「村を助けてもらったというのにこんなことしか――」
村人がそう言って頭を下げる。
俺は少し黙り込み、視線を落とした。
助けてもらった、か....。
「俺はこの村を魔族から守り切れなかった――
犠牲も出た――
感謝される筋合いなんて....」
俺は拳を握る。
空気が静まり誰も言葉を返さない間ができた。
そのとき、ふとエルダの方を見るとなぜか違和感があった。
うまく言葉にはできないが何かが変わっているのだけは分かる。
顔色...
雰囲気...
そういうものではなかった。
ふと、嫌な予感がする。
「......エルダ。」
「俺の回復に何を使った?」
「..........。」
エルダが目を反らし沈黙する。
「頼む、はっきり答えてくれ。」
エルダはしばらく黙り込んだ後、小さな声で呟いた。
「......私の寿命...かな......。」
頭の中が静かになる。
「あと三十年くらい.....かも......。」
エルフにとって三十年がどれほどのものなのか、俺には分からない。
だが自分のせいでエルダは命を削ってしまったのは間違いない。
その事実だけは、はっきり理解できた。
「....俺のせいで…。」
呼吸が乱れ視界が狭く、暗くなっていく。
「俺が勇者にならなければ……。」
五百年前――
俺が負けなければ......
俺がもっと強ければ......
もっと——
「ルスト。」
エルダが静かに俺を呼ぶ。
「君が責められることじゃない。」
「君が君自身を否定してはいけないよ。」
優しく諭すような声、
その優しさが余計に胸に刺さる。
「...そのためには君が役割を、 君の運命を全うする必要がある。」
「そしたらきっと君は自分を赦せる。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が重くなる。
今まで積み重なってきた全てを思い出す。
失われた都市や死んだ人々、魔王との因果、
「......そうだ。」
ゆっくりと息を吐く。
「俺は——」
魔王を倒す運命に縛られた存在、
「勇者ルストだ。」




