火蓋を切る Ⅴ
理性のない魔族が迫る――
硬い、だが倒せないわけじゃない...
それはもう理解している。
腕を掴み、そのまま群れへ投げ込む。
地面に叩きつけられる音とともに下敷きになった魔族達が潰れる。
そして投げ込まれた魔族は暴れ、味方に危害を加え始める。
周囲の魔族が対処しようとするが、あれは簡単には止まらない。
周囲を巻き込んだ混乱へ俺も飛び込んだ。
拳で潰し、踏み抜き、蹴り飛ばす。
群れの中でさっきの魔族が落とした槍と剣を拾う。
前方に飛び込み、剣を振る。
魔族の壁を斬り開く。
続けて、槍の柄の端を掴み、
横薙ぎ。
周囲の魔族をまとめて吹き飛ばした。
ようやく視界が開け始める。
だが地面には氷が滞留している。
動きを制限するようにまばらに置かれている。
その瞬間――
「――雷魔法」
光が炸裂する。
氷が邪魔で移動先が限られる。
ならば...
魔族の身体を踏み台にする。
飛び乗りながら逃げる。
その時、
「——風魔法」
「またか...。」
吹き飛ばされる...
そう判断した瞬間、近くの魔族を掴んだ。
爆風が身を押し上げる。
また周囲の魔族ごと吹き飛ばされる。
回避しようがない落雷が周囲の魔族を襲い、焼ける臭いが漂う。
俺は掴んだ魔族を上へ蹴り飛ばし、盾代わりに雷を防いだ。
着地を成功させなければ....
...だが反発魔法は使えない。
左腕を地面へ叩きつけ、衝撃を逃がす。
もちろん――
左腕が動かなくなった。
直後、炎が迫り来る。
転がるように回避する。
「着地を狩るつもりだったんだがな.....」
頭の切れる魔族の声、
やつがいなければ...
「鬱陶しい....」
無理やり立ち上がりすぐさま動く。
「しぶとい……」
先ほどの魔族から声が漏れる。
周囲を見たところ、理性のない魔族が暴れたおかげで数は減っていた。
その時、目の前に石が落ちる。
魔力が込もっているわけではない。
見上げると空に巨大な岩石がいくつも浮いていた。
落ちて来る岩石を避け続ける。
轟音と魔物の断末魔がそこら中で響いている。
潰されている。
魔族の群れの中には、腰を抜かしたものもいる。
剣を奪い、振るう。
辺り一面を切り裂く。
その瞬間、魔力が波打つのを感じた。
視線を向けた先から何かが飛んできた。
腹に何かが当たる。
ナイフが深く刺さっていた。
...ナイフを投げられた。
いや風魔法か。
そんなこと考えてる場合じゃない....
回復できない...
止血...
考える隙を与えてくれず、
理性のない魔族の標的が再び俺になる。
魔族の拳が地面へ叩きつけられ、その勢いを利用する。
身体を転がし、背中から倒れる。
魔族の首が空いた瞬間、拳を叩き込み、首の骨が砕ける。
直後、上から岩石が落ち、頭へ直撃した。
落ち着け...!
上を確認すればよかっただろ...!
血が流れ、地面に滴り落ちる。
その向こうに笑っている魔族が見えた。
あいつだ...!
走り、追う。
魔族は俺を待ち構え、詠唱していた。
「——風魔法」
「.......!」
俺は焦る気持ちを抑え、魔法で正確に対処する。
「——抹消魔法」
自身の周囲の魔法を打ち消し、風が消える。
そのまま距離を詰めると魔族は剣を取り出し、接近戦に持ち込む。
だが身体がふらつき、完全には避け切れない。
浅い傷だが増えていき、痛みが増していく。
それでも力を振り絞り、剣を叩き折る。
魔族が笑う。
「反発魔法だったか?それもまだ使えないのだな。」
不敵な笑み。
次の瞬間、魔力が激しく波打つ。
「——炎魔法」
横から炎が割り込み距離を取られる。
さらに、
「——精神魔法」
まずい...
対策がない...
まだ魔法を使えるようになっていない...
なす術無く平衡感覚が崩れる。
膝をつき、体制を保とうとするのが精一杯だった。
魔力探知で炎が止んだのは分かった。
恐らく魔族も代償でほとんど力尽きている。
魔族の数も後僅かだった。
だが、今の状態では何もできない...
周囲を見る余裕すらない....
そこへあの魔族が歩いてくる。
疲労に満ちた声、
「詰みだ、勇者よ....」
どうするか――
俺は――
腹に刺さったナイフを引き抜き、そのまま魔族の首を掻き斬る。
「なぜだァァッ....?!」
血を吹き出しながら叫ぶ。
「.....魔法盾を張った。」
魔族は目を見開き驚いている。
「....見えないよな.....頭の中だけなんだから...」
ゆっくり立ち上がっても身体が軋む。
「...だまし...た..のか..?」
「.....魔法の復活時間を短縮した」
舌を出して指差す。
「.....五感の一つを差し出してな。」
魔族が崩れ始める。
それを見届けて残った魔族のもとへ向かった。
もう、戦意を失ったものしか残っていない。
一体ずつ潰して回る。
逃がさない。
回復魔法を使えるようにしてもよかった。
――が、あの魔族なら回復すれば油断しなかった。
魔族は全滅し、静けさが訪れる。
風の音だけが残る...
頭の中がぼんやりとしている。
俺の目的は...
俺の目指す先は...
もう、疲れ——
俺はそこで意識が途切れた。
俺はその場で倒れ込んだらしい。




