鉄壁の凶陣 Ⅲ
増援が来たとて状況は変わらない―――
―――そう思っていた。
だが、学習していた。
再び地面を蹴り泥で視界を遮る。
しかし、今度は距離を取り視覚の妨害は通じない。
無理に踏み込んで来ないせいで連携が崩せない。
厄介だ....
そう思っている中でも違和感が頭の中を漂う。
最初に襲われた地点からかなり移動したはずだ
....なのにこちらを見ている魔族の集団との距離は変わっていない。
魔力探知による監視?
指揮している魔族がいるとして距離を保つ理由は?
とにかく現状を打破しなければこちらが消耗するだけだろう。
逃げるか...?
二体の拳を躱し、踏み込む。
全速力で魔族を置いていく。
すぐさま魔族が追いかけてくる。
魔族も撒けるほど遅くはなかった。
逃げるのは無理...
――ならば指揮官を潰す。
走る足を止め、飛び上がり、迫る魔族の上を通過する。
指揮官らしき魔族とその集団は俺を追うために近づいている。
――集団が見えてきた。
...4体いる。
そのうち3体はおそらく理性を失ったであろう魔族。
筋肉が異様だ。
そしてその中心に1体いる。
他とは違い普通の魔族に見える。
棒立ちで無防備に思えるが理性のない魔族が護衛している。
あいつがこの部隊の主...
「....来たか....勇者....」
口数が少ない。
そして魔力が波打っている。
後ろの魔族に追いつかれる前に突っ込む。
だが、護衛が前に出て止められる。
後ろに気配があった。
追いつかれたのだ。
拳が振り下ろされ、それを躱す。
泥が飛び散り少し距離を取ると集団は俺を見失った。
そしてそのうちの1体に見つかる。
理性を失った魔族の視線がこちらを捉えた瞬間——
中央の魔族が反応した。
続けて。
全員が動く、それは同時に見えた。
攻めてくるのは2体で護衛は下手に攻めない。
視覚の共有...というより感覚の共有なのだろうか....
おそらく守られた魔族を中心に繋がっている...
ただそれだけでは統率された動きに説明はつかない...
中心の魔族は魔力が常に波打っている...
――考えられるのは精神操作の魔法の類いだろう....
攻撃を躱すものの前後を取られる。
だが、予想が正しいのなら...
こいつらは操り人形のようなもの。
人形の糸を切れば...
わざと隙を見せると片方が踏み込み、もう片方もそれに合わせる。
攻撃が同時になる。
その瞬間。
拳を躱し両方の首を掴む。
「——抹消魔法」
魔族の動きが固まる。
次の瞬間。
唸り、暴れる。
そして攻撃は直線的になる。
本能に任せたような突進を回避し蹴り飛ばす。
敵味方関係ないようで矛先は近くの護衛にまで襲いかかる。
護衛1体が魔族2体を相手する。
攻めるなら今しかない。
さっきと同じ2体相手だが今度は動きが鈍い。
無言のまま中心の魔族は焦っている。
操作に余裕がないのだ。
攻撃が楽に当たり、魔族の拳は簡単に躱せる。
俺の攻撃で護衛はよろめく。
踏み込んだ瞬間、中心にいる魔族と目が合う。
村で貰った錆びたナイフを手に取る。
護衛が体制を立て直し、すぐさま割り込む。
――全て斬ればいい。
だがナイフは護衛を胴を切り裂くのが精一杯だ。
中心の魔族は仕留め損なった。
逃げようとしたので腹部に蹴りを入れ、立ち上がれなくした。
ヴァーダクトなら斬れていただろう。
護衛2体が崩れ、同時にナイフも砕ける。
精神魔法を使う魔族へ迫る。
泥を這いずりながら逃げようとする。
だがその足では逃げられない。
...先に暴走した魔族を抑えている方を潰してしまおう。
力が互角で疲弊した魔族たち。
まずは抑えている方――
頭を殴った瞬間、暴走した魔族2体に押し倒された後、頭が潰されていた。
あと2体。
理性のない魔族2体がこちらへ向かってくる。
力に任せた拳はさすがに避ける。
攻撃はやはり簡単に効かない。
後ろからも唸り声、
拳が同時に迫る。
「――反発魔法」
弾く力が拳を滑らせる。
軌道が逸れ、互いの拳が頭へ直撃する。
鈍い音とともに魔族が倒れる。
その隙に俺は首をへし折った。
精神魔法を使っていた魔族が這いずるように逃げている。
慈悲はない。
「み...見逃してくれ...」
「...隙を見て魔法をかけようとしてるだろ」
魔族は空いた口がふさがらない。
拳を振り下ろし頭が潰れる。
静かになる。
俺は顔についた泥を拭った。




