表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/41

第37話 ローレンツ生徒会を狙う

 放課後。

 テオドールファミリーのアジト。


「ボス」


 ローレンツが神妙な顔で座っていた。


「なんだ」

「重大なご報告があります」


 テオは帳簿から目を上げた。

 重大という言葉を、この男が使う時は大抵ろくでもないことである。


「……聞くけどさあ」

「俺、生徒会に立候補します」


 沈黙。


「……は?」

「生徒会です」


 ローレンツは繰り返した。


「聞こえてたよ。なんで」

「箔をつけるためです」


 即答だった。


「箔?」

「コンシリエーレとして、ファミリー内での信頼回復も大事ですが、やはり学園内での地位というものが必要です。生徒会メンバーともなれば、社会的信用が段違い」


 指を立てる。


「それに」


 声を低くする。


「レオンハルト様も、生徒会メンバーには手を出しにくい。目立ちますから」


(本音が出た)


 テオは心の中でため息をついた。

 結局そこか。

 ローレンツはまだレオンハルトに借金を返していない。

 それで逃げ回っているのだ。


「生徒会に入れば借金取りから逃げられると思ってるのか」

「思ってません」


 即否定。

 レオンハルトの悪辣なふるまいを思い出して身震い。


「確信しています」


 断言だった。

 テオは本気で頭が痛くなってきた。


「反対だ」

「なぜですか」

「ろくなことにならないから」

「大丈夫です」


 ローレンツはにっこり笑った。


「完璧な作戦があります。秘策とでも言いましょうか……」


(また秘策か)


 テオは天井を見上げた。

 今までのローレンツの考えた秘策の結果を思い出してため息が出る。


「ボスの名前は使いません」


 珍しいことを言う。

 強気になびき、弱気を強請るこの男がどうしたことかと、テオは帰りの天気を心配した。


「雨が降らなければいいけど」

「今回ばかりは、自分の力で勝ち取ります」


 どや顔。

 テオは少しだけ安心した。


(名前を使わないなら、被害は最小限かもしれない)


 その甘い見込みが、後に覆されることをこの時は知らなかった。

 一方、ローレンツ。


(生徒会に入って、ベルンシュタイン兄弟の悪事を告発。あの馬鹿兄貴とボスがいなくなったところで、テオドールファミリーを一気に掌握してやる)


 やはり腹黒かった。


――


 生徒会選挙は年に一度、一年生の新メンバーを募るという形で行われる。

 一年生の中から立候補者が演説を行い、全校生徒の投票で当落が決まる。

 今年の立候補者の掲示板には、すでに数名の名前が貼り出されていた。


 そこに新たな紙が一枚。


「ローレンツ・フォン・クライネルト」


 それを見た生徒たちの反応。


「誰?」

「ベルンシュタインのところの……」

「ファミリーの人じゃないか」

「マジか、生徒会に入るつもり?」

「なんで?」


 話題にはなった。

 ただし、良い意味ではない。


 その日の放課後。

 ローレンツは一人、演説の練習をしていた。


「諸君! 我が学園をより良くするために――」


 うなずく。


「違う、弱い」


 咳払い。


「同志たちよ! 我々は今こそ立ち上がらなければ――」


 悩む。


「革命感が強すぎる」


 腕を組む。


「……」


 しばし考える。


「そうだ」


 ぽんと手を叩く。


「実績だ。実績を語ればいい」


 にやりと笑う。


(俺には輝かしい実績がある。違法娼館の摘発。屋台戦争の勝利。決闘事件の解決。トーナメントでの活躍――)


 全部テオの実績だった。

 ローレンツはそれに気づいていない。

 いや、正確には気づいているが、現場にいた自分の実績でもあるという解釈をしていた。

 コンシリエーレとして采配を振るった。

 それは功績のうちに入る。

 そういう理論だった。


(完璧だ……!)


 脳内で万雷の拍手が鳴り響いた。


――


 演説当日。

 学園の中庭に全校生徒が集まっていた。

 年に一度の行事である。

 教師陣も見守っている。


 立候補者が順番に演壇に立ち、三分間の演説を行う。


 シャルロッテと同じ母親を持つ、フェリックス王子も一般メンバーとして立候補していた。

 爽やかな演説。

 大きな拍手。


 次の候補者も無難にまとめる。

 拍手。


 そして。


「次、ローレンツ・フォン・クライネルト」


 司会が読み上げる。

 ざわめき。


「ファミリーの人だろ」

「なんで来たんだ」

「怖い」


 やや引き気味の空気の中、ローレンツが演壇に立った。


 正装している。

 髪もきっちり整えている。

 いつもの胡散臭い笑顔ではなく、真剣な顔だった。


(……意外とちゃんとしてる)


 観客席のテオは少しだけ見直した。


 ローレンツが咳払いをする。


「諸君」


 低い声。


「私はこの学園に入学してから、数多くの困難と向き合ってきた」


 静まり返る中庭。


「違法娼館の摘発。街の不良との抗争。学園内の秩序を乱す者たちへの対処。そして、決闘による名誉の回復――」


 ざわめきが広がる。


「それら全ての現場に、私はいた」


 胸を張る。


「采配を振るい、策を練り、仲間を守った」


(……あの、全部俺が巻き込まれて、しかたなくやったやつでは?)


 テオは首を傾げた。


「そんな私だからこそ、生徒会で皆さんのために働けると確信している!」


 ぐっと拳を握る。


「私を信じてほしい!」


 沈黙。


 三秒。


 五秒。


 パチパチパチ……


 まばらな拍手。


 だが。


「待ってください」


 声が上がった。


 エリザベートだった。


「今おっしゃった実績、それって……」


 視線がテオに向く。


「ベルンシュタイン君のことじゃないですか?」


 どよめき。


「違います」


 ローレンツは即答した。


「私もいました」

「いたのと、やったのは違いますよね」


 エリザベートは穏やかに言う。


「コンシリエーレとして采配を振るいました」

「采配……」


 エリザベートが首を傾げる。


「自分では何もしていませんよね?」


 沈黙。


(予定外だったが、ここで秘策をだしますか)


 ローレンツの秘策が発動する。


「これを見ても言えるか?」


 ローレンツが叫ぶ。

 そして服を脱いで、上半身を露出する。


 そこにあるのは無数の傷。


「これが戦いの証!男の勲章だ!!」


 ざわめきが大きくなる。


「あるときは調査のため、敵の中に潜入。あるときは先行してアジトを急襲。そうして作戦を重ねるうちに、自然と増えていった」


 その説明で観客は息を吞む。


(くっくっく。騙されているな)


 ローレンツは心の中で笑っていた。

 この傷はレオンハルトに暴行されてついたもの。

 男の勲章とはほど遠かった。


 会場の雰囲気がローレンツに呑まれ、感動で涙を浮かべる者もいた。

 構成員だけど。

 そんな雰囲気を吹き飛ばす発言。


「私も質問があるわ」


 シャルロッテだった。


「突然ですね、殿下……」

「質問してもいいでしょう?」


 にっこり笑う。


「ローレンツ君、生徒会に入って何をしたいの?」


 ローレンツは胸を張った。


「学園をより良くします」

「具体的には?」

「……」


 一瞬、詰まる。


「食堂のメニューを増やします」

「予算は?」

「……工面します」

「どうやって?」

「……知恵を絞って」


 シャルロッテはくすりと笑った。


「要するに、何も考えていないのね」

「そんなことは!」


 否定したいが事実だった。

 目的はレオンハルトとテオの追放。

 観衆を感動させることで頭がいっぱいで、政策までは考えていなかった。


「ではもう一つ」


 シャルロッテは立ち上がった。


「あなたが生徒会に入りたい本当の理由は何?」


 静寂。


 ローレンツは微動だにしない。


「……学園のためです」

「嘘ね」

「嘘ではありません」

「一般生徒から、テオドールファミリーに迷惑をしているという訴えがあるのよ。コンシリエーレのあなたにも責任があるでしょう」

「くっ……」


 反論できないローレンツ。

 感動の雰囲気が一気に吹き飛ぶ。


「演劇を無理に見せられた」

「廊下を歩いていたらいきなりどけと言われて蹴られた」


 過去の悪事が蘇る。


(ああ……俺を巻き込まないでくれ……)


 流れ弾の当たったテオは気が遠くなる。


「ちがっ……!」


 ローレンツが否定しかけたところで。


 中庭の入口。

 レオンハルトがいた。

 この演説を聞きに来ていたのである。

 というか、ローレンツを捕まえるためにやってきていたのだが。


 ローレンツの目がそれを捉えた瞬間。


「私の演説は以上です」


 演説と質疑を無理矢理打ち切り、演壇のそでから逃げていく。

 それを見た生徒たちは。


「不利になったから逃げた」

「やはり何か企んでいた。学園のためっていうのは嘘だな」


 と口々に言う。


 逃げたローレンツはレオンハルトとその子分に追いかけられていた。


「いたぞ!!捕まえろ!!」

「待て!!」


 追う男たち。

 逃げるローレンツ。


「捕まえろ!!」

「くそっ! 速い!!」


「う、うわあああああああ!!!!!」


 絶叫しながら中庭を一周。

 二周。


 走りながらローレンツが叫ぶ。


「投票よろしくお願いします!!」


 どっと笑いが起きた。


 そんな笑いの中、担任であるゲルハルトがテオの所にやってくる。


「ベルンシュタイン。お前クライネルトにそんな危険な事をやらせているのか」

「いや、そんなことは――」

「話は職員室で聞くから今はいい」

「ちょっと、先生」


 テオは職員室に連れていかれた。

 誤解だとうったえるも、虚偽の発言をしたローレンツはどこかへ行ってしまって、否定してくれはしない。

 こってりと絞られて、げっそりして下校するテオ。


 なお、そのころローレンツは地面から首だけ出した状態で埋められていた。

 勿論、埋めたのはレオンハルト。


「お助けを!金なら、金なら必ず用意しますんで!」

「じゃあ、利子100%な」

「そんな!」

「不満ならいい。このままにしておくだけだ」

「わかりました!お支払いします!」


――


 投票結果が発表された。

 ローレンツの得票数。


 三票。


「……三票」


 ローレンツは掲示板の前で固まっていた。

 男の勲章である傷がさらに増えている。

 服を着たままでも、顔に出来た傷と、包帯でつった腕を見ればわかる。


「三票」


 もう一度繰り返す。


「一番少ない」


 ぽつりと言った。


 ブルーノが横を通りかかる。


「落ちたか」

「……落ちました」


「まあ」


 立ち止まる。


「次があるだろ」


 それだけ言って、また歩いていく。


 ローレンツはその背中を見送った。


 テオが近づいてくる。


「三票、誰が入れたんだろうな」


「……私です」


 ローレンツが呟く。


「自分に入れたんですよ。一票」


「二票は?」


 沈黙。


「……ブルーノと、構成員が入れてくれたみたいで」


 テオは少しだけ笑った。


「じゃあ、ちゃんと仲間がいるじゃないか。俺は酷い目に遭ったから、ローレンツには投票しなかったけど」

「仲間はいらないんで、金を下さい。このままだと、埋められる……」


 誰に?と聞こうとしたテオだったが、直ぐにわかったのでそれはきかないでおいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ