第34話 上演
ブルーノはテオやローレンツの前で意気揚々と演劇のことを話す。
「ボスのこれまでの輝かしい人生を演劇として上演します!三日後を楽しみにしていてください!!!」
(この短時間で演劇を決めてきたの!?)
(馬鹿の行動力、侮れん……)
テオとローレンとは頭痛がした。
そのころ、カタリナは全てをシナリオ作成に捧げていた。
テオの話ということで、舞台は学園と決めて、大道具の作成は発注してある。
あとは、その舞台にあうストーリーを作る。
やっとめぐってきた復讐のチャンスを逃したくはない。
その執念が脚本を作り上げた。
その脚本を読んだ部員は困惑する。
「部長、本当にこれを?」
「そうよ。時間がないわ。はやく稽古しましょう」
無理だと言いたい部員たちだったが、カタリナの瞳に宿る狂気が怖く、そのまま稽古となった。
そして上演当日。
学園内のホールに学生たちが集まっていた。
ブルーノたちが脅して連れてきた者たちが殆ど。
「ボスの英雄譚、見たいだろう?」
「いえ――」
「なにぃ?」
ブルーノの眉毛がピクリと動き、目がすっと細くなると、一般生徒は怖くて頷くしかなかった。
こんな感じで大人数が集められた。
シャルロッテやエリザベートのように自主的に来ていた生徒もいる。
それと、教師ではリディア。
いよいよ幕が上がる。
圧倒的強さでのし上がっていくテオを演じるカタリナ。
そして始まる独白。
「女として生まれながら、それを隠して生きていかなければならないなんて。本当は可愛らしいドレスを着たいのに、身に着けているのは返り血のついた制服――」
その台詞を聞いて、テオは椅子からずり落ちた。
シャルロッテとリディアは爆笑。
エリザベートは共感して涙。
気がつけばテオの目にも涙。
それが舞台の上のカタリナにも見えた。
(あの野蛮人が私の演技で感動?ウフフ、それほどまでに私の演技は素晴らしいのね)
勘違い。
圧倒的勘違い。
そして、幕が下りた。
拍手。
「……」
静かに立ち上がる男が一人。
「……」
ローレンツだった。
震えている。
「……ボスを」
低い声。
「ボスを侮辱するとは……!」
ゆっくりと舞台を睨む。
「許せませんね」
完全にキレていた。
「ブルーノ!!」
振り向く。
「お前、なんてものを見せたんですか!!」
「……んぁ?」
ブルーノは寝ていた。
ローレンツに呼ばれて寝ぼけまなこ。
「は……?」
ローレンツ、固まる。
「……終わったのか?」
目をこするブルーノ。
「すみませんボス……」
寝ぼけた声で。
「どうでした?」
テオを見る。
「……」
テオは笑った。
ひきつった笑顔で。
「……いいんじゃないかな」
沈黙。
「でしょう!!」
ブルーノ、満面の笑み。
「感動巨編ですから!!」
(こいつ、埋めようかな)
強い殺意が沸いた。
その後。
舞台裏。
「……話があります」
テオが言った。
相手はカタリナ。
「なんでしょう」
静かな声。
だが。
(まさか怒って私を殺そうと?)
内心は恐怖していた。
「この演劇の」
テオはそこで一度区切って大きく息を吐く。
「権利を、買い取る」
沈黙。
「……はい?」
「上演権、脚本、全部だ。だから、もうこの劇は上演させない」
「……」
カタリナは黙る。
テオは続けた。
「代わりに、今後の活動資金は出す」
ゆっくりと続ける。
「衣装も、舞台装置も、公演費も」
目をそらしながらテオは言う。
後ろめたいから。
「全部、面倒を見る」
真実に近い劇が上演されるのは堪えられなかった。
だから、金で封殺しようというわけだ。
「つまり」
カタリナの反応を確かめるように。
「君の」
だが、真っ直ぐに相手の目を見ることは出来なかった。
「パトロンになる」
沈黙。
部員たちがざわめく。
「……本気ですか?」
「ああ」
テオは答える。
そして、カタリナの口元が、わずかに歪む。
「……分かりました」
即答だった。
数年後、カタリナはテオのバックアップを得て、トップスターへと昇りつめるのだった。
その裏では、ある一つの作品だけが、永久に封印されたという事実があった。
帰り道。
「いやぁ!!成功でしたね!!」
ブルーノが笑う。
「ボスも満足そうでしたし!!」
「そうですね。ブルーノにしてはよくやりました」
ローレンツも頷く。
「次も期待していてください!」
「やめて……」
自信満々のブルーノにテオはげっそりした。
そして、空を見上げる。
「ああ……」
「ああ……俺は何故異世界でこんな目に……」




