第33話 第二演劇クラブ
学園内、テオドールファミリーのアジト。
「ついに構成員も50人か……」
ブルーノが感慨にふける。
「少数精鋭でいいよ……」
うんざりした顔のテオ。
「流石はボス。真の男だけでいきたいのですね」
「できれば、一人がいいんだけど……」
「ええ、ボスほどの男はおりませんからな!」
かみ合わない会話。
そこへ――
「ボス!!」
ドアが勢いよく開いた。
「またか」
テオは顔も上げずに答えた。
この声の主は一人しかいない。
「ファミリー、ついに50人達成しました!!」
「知らん」
ローレンツだった。
満面の笑み。
やたらと機嫌がいい。
「記念品です」
差し出されたのは、小さな箱。
「……なんだこれ」
開ける。
「……金?」
懐中時計だった。
しかも、無駄に豪華。
「純金です!!」
「高いんだろう?」
「安いもんですわ。資金回りも順調ですので!!」
キラキラしている。
ローレンツも時計も。
いや、ローレンツは脂ぎっているというべきか。
金回りの良い不動産会社の社長みたいなギラギラしたオーラがあった。
(嫌な予感しかしない)
ぞわりという悪寒がテオの背中に走る。
「カスどもは分かっていませんが」
とローレンツが言った。
構成員たちの方を見て。
「何がだ」
ブルーノが反応した。
「こういう“心遣い”ですよ」
にやりと笑う。
「記念すべき日にボスへの感謝を込めた贈り物。そうしたことが出来るのは、このローレンツだけ。コンシリエーレとしては当然ですがね」
「くううううううっっっ!!!」
奥歯を強くかみしめるブルーノ。
「聞き捨てならねえな」
ローレンツの前に立ちはだかる。
「金じゃねえ」
ブルーノがゆっくり立ち上がる。
「ボスの価値は、そんなもんじゃねえ」
「では何で?」
ローレンツが笑う。
「“伝説”だ」
沈黙。
「……は?」
テオを含めて全員の頭に?が浮かぶ。
「ボスの人生は」
振り返る。
「語り継がれるべきだ」
(やめろ)
「だから」
びしり、と指を突きつける。
「舞台にする」
「やめて……」
「もう決めた!!」
ブルーノはどこかへと走っていく。
(終わった)
テオは、そっと天井を見上げた。
ローレンツが横に立つ。
「覚悟はしておいてください」
「ああ……」
二人とも、ブルーノが暴走する予感にうんざりだった。
そのブルーノが向かった先。
第二演劇クラブ部室。
テオドールファミリーに乗っ取られた部室に比べると小さい。
メンバーも減った。
「さあ、稽古をしましょう」
部長のカタリナが言った。
彼女は演劇への情熱を諦めきれず、第二演劇クラブを学園に申請し、クラブとして認められたのだった。
が、予算は少ない。
カタリナの夢は舞台女優。
卒業したら劇団に所属し、いつかは国立劇場の舞台で、主役を演じたいと思っていた。
だから、諦めない。
そこにブルーノがやってくる。
「お前らァ!!」
役者顔負けの大きな声。
ドアが勢いよく開いた。
「誰だ!?」
「ひっ……!」
ブルーノだった。
遠慮なく踏み込む。
「いい知らせだ!!」
(よくない)
部員たちが一斉に思った。
「お前らに」
ビシッと指を突きつける。
「ボスの偉大な人生を」
間。
「演じさせてやる!!」
沈黙。
「……は?」
誰かが呟いた。
「光栄だろ!!」
(全然)
だが、誰も口に出さない。
出せない。
怖いから。
ただでさえ厳つい風貌のブルーノが、ローレンツに馬鹿にされたことで鬼の形相になっているのだ。
気が弱い者であれば、見ただけで失神する。
「すごい舞台になるぞ!!上演は三日後だ!」
ブルーノは満面の笑みだった。
(いやいや、ゼロから三日で完成なんて無理だろ……)
あまりの無茶ぶりに失神しそうになる部員たち。
素人がゆえに、その大変さを知らないのだ。
怖くて否定も出来ないので、そのまま話は進む。
「予算も出す!!」
ぴくり。
カタリナの指が止まる。
「……予算?」
お金がないことで苦労していた。
だから、その言葉には弱かった。
「出せるだけ出す!!」
沈黙。
部員たちがざわつく。
「……でも」
カタリナが言う。
「あなたも学生でしょう?演劇の道具にかかるお金はとても沢山よ」
ブルーノの目を見る。
怖いけど、視線を逸らせば雰囲気にのまれる。
だから、逸らさない。
「衣装も」
「舞台装置も」
「照明も」
ブルーノは、少しだけ考えた。
そして。
「……問題ねえ」
にやり、と笑う。
「ローレンツには内緒で」
間。
「ファミリーの金を使う」
ブルーノの一大決心。
「ボスのためだ」
ブルーノは言う。
「必要経費だ」
まったくもって身勝手な理論。
しかし、ファミリーの中でカポのブルーノ以上の力を持った者はいない。
暴力にうったえたなら、誰も逆らえない。
テオを除いて。
しかし、ブルーノの頭の中では、演劇を見て喜ぶテオの姿。
問題なかった。
「……そう」
カタリナが、小さく呟く。
顔を上げる。
「分かりました」
その声は、やけに素直だった。
「引き受けます」
部員たちがざわめく。
「部長!?」
「本気ですか!?」
「ええ」
微笑む。
「やりましょう」
その笑顔は。
どこか。
歪んでいた。
(……ベルンシュタイン)
カタリナは考える。
(あなたたちのせいで)
演劇クラブは奪われた。
未来も潰されかけた。
(こんな筈じゃなかった)
割れんばかりの拍手。
演技をほめたたえる歓声。
名俳優としての名声。
その全てが、遠のいた。
(なら)
ゆっくりと目を細める。
(あなたの人生を)
(舞台にしてあげる)
口元が、歪む。
(最高に、最低な形で)
その日、テオの人生をモデルにした演劇を上演することが決まった。
ただし、最悪の形で。




