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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第28話 お見合い

 その日、テオドールファミリーには激震が走っていた。


「ボス、ブルーノがお見合いをするそうです」

「はあ?」


 その情報を聞いたテオは間抜けな声を出した。

 構成員たちの間ではすでに広まっていた情報。

 それがやっとテオのところに来たのである。

 持ってきたのはローレンツ。

 横で聞いていたエリザベートも身を乗り出す。


「本当?」

「はい。なんでも、相手の令嬢がブルーノを気に入ったとかで」

「よくそんな情報を知っているな」

「ブルーノ本人から聞きました。どうも悩んでいるようで」

「悩む要素が無いんだが」

「あいつ、テオドールファミリーのカポとして未熟だからと言ってます。まだ修行中の身で、ボスに先んじて結婚などと」


 テオはずっこけた。


「それって、俺が結婚しないと、ブルーノは一生結婚できないのか」

「そういうことです。あいつ、馬鹿ですから」

「テオの結婚のことはいいのよ!」


 ちょっと不機嫌になるエリザベート。

 そして、さらに話を聞くと――


「それ、実質的なオーナがうちのレストランじゃないか」


 ベルンシュタイン家所有の高級レストラン。

 そこでお見合いが行われるという。


「なるほど。そうと決まれば、我々も当日乗り込みましょう」

「そうね」


 意気投合するローレンツとエリザベート。

 ローレンツは相手の令嬢が裕福な貴族家であるということを知っていた。

 エリザベートは好奇心から。


 その後、ローレンツは構成員たち数名を選抜した。


「いいか、お前ら。ブルーノのお見合い当日、会場のレストランに強盗に入れ」

「なんでだよ」

「ブルーノブルーノの見せ場をつくるためだ」

「なるほど!」


 構成員たちは騙されていた。

 ローレンツは構成員たちを仕込みとして使い、自分がそれを退治することで、令嬢に惚れられるというシナリオを描いていた。


(奴にとってあの家の財産は猫に小判。俺こそが持つにふさわしい)


 相変わらず最低な男であった。


 お見合い当日。

 重厚な扉の向こう。

 上流階級のための空間が広がっている。


 その一角。


「……なんで俺までいるんだ」


 テオは小声で呟いた。


「野次馬ですわ」


 隣で、エリザベートが優雅に紅茶を口にする。

 完全にノリノリである。

 二人ともウイッグと眼鏡で変装。


「帰りたい」

「駄目よ」


 即答だった。

 その向かい。

 帽子とサングラスで変装したローレンツが身を乗り出す。


「来ますよ……!」


 視線の先。

 ブルーノが、緊張した面持ちで席に座っていた。


 その向かいには――


「……美人だな」


 思わずテオが呟く。

 長い金髪。

 整った顔立ち。

 絹でつくられた高級な服。

 いかにも裕福な貴族令嬢。


「ブルーノ様……」


 うっとりとした視線。


(完全に惚れてるな)


「なぜブルーノなんですの……」


 エリザベートが納得いかない顔をしている。


「そこ?」

「そこですわ。あんな筋肉だるま」


 断言された。

 エリザベートは男が嫌いなので、筋肉を嫌悪していた。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます」


 ブルーノがぎこちなく頭を下げる。


「いえ……お会いできて光栄ですわ」


 令嬢は頬を染める。

 完全に惚れた女性の目。


(おいおいマジか)


 テオは驚く。


(あいつそんなモテ要素あったか?)


「……これはまずい」


 ローレンツが呟いた。


「何がだよ」

「このままではブルーノが玉の輿に乗ってしまう」

「いいことだろ」

「よくありません」


 真顔だった。


「財産がすべてブルーノのものになります」

「いや本人のものだろ」

「つまり、ファミリーの財産ではありません」

「違うだろ」


 全力でツッコむ。


「ですが……」


 ローレンツの目が怪しく光る。


「まだチャンスはあります」

「嫌な予感しかしない」

「ここで私が彼女を救えばいいのです」

「は?」

「強盗です」

「都合よく来ないだろ」


 即座に否定。


「構成員に強盗のふりをさせ、この店を襲撃させます」

「まさか、仕込んだ?」

「コンシリエーレとして当然の策です。そして私が撃退する」

「おいおい」

「これで彼女は私に惚れる」

「そこはつながらないだろ。すぐにやめさせるんだ」


 全力で止めた。

 だが。


「既に手配済みです」

「お前……!」


 その時だった。


 ガンッ!!


 扉が蹴破られる。


「全員動くなぁ!!」


 怒号。

 覆面の男たち。

 武器を持っている。


「金目のものを出せ!!」


 店内が凍りつく。


「……おい」


 テオはローレンツを見る。


「ボス、行ってきます」


 ちょっと前の店の外。

 構成員たちは覆面をかぶろうとしていたところで、他の覆面が店内に入っていくのを見た。


「あれ、俺たち以外にも同じことをしている奴がいるぞ」

「コンシリエーレが他の奴らにも頼んだんだろ」

「俺たち信頼ねえなあ」

「帰るか」


 構成員たちは勘違いしていた。

 先に入っていったのは本物の強盗。

 ローレンツは他にも頼んだりはしていなかったのだ。


 そして、再び店内。


「こらー、お前ら。このローレンツ・フォン・クライネルトが相手だ」

「動くんじゃねー!!」


 強盗の持っていたブラックジャックで殴られるローレンツ。


「ぎゃあああ!!」


 悲鳴。

 ローレンツはのたうち回りながら、強盗に文句を言う。


「お前ら、俺だぞ」

「知るか!」


 そこで強盗の覆面が少しずれた。


「誰?」


 ローレンツは見知らぬ顔に驚く。


「ボス、別人です。本物……」


 ローレンツはそこまで言うと、動かなくなった。


「本物かよ」


 テオが立ち上がる。


「貴様ら!!」


 拳を握る。


「俺が相手だ」


(とは言ったものの、ここで魔力を使って女体化するのもなあ)


 勢いで立ってしまったが、どうしようかと悩むテオ。


 次の瞬間。


 ドゴッ!!


 強盗が吹き飛んだ。


「ぐはぁっ!!」


 一撃。

 床に転がる。


「なにうちの店でやらかしているんだ」

「お兄ちゃん!」


 レオンハルトだった。

 タイミングよく、彼女と店にやってきたレオンハルト。


「ローレンツ!!」


 ブルーノが叫ぶ。

 令嬢が怯える。


「……怖い……」


 震えている。

 ブルーノはそんな令嬢を放置。


「ボス!!」


 ブルーノが駆け寄る。


「どうしてここに?」

「いやあ、リザと食事をねえ」


「ボス……?」


 令嬢の顔色が変わる。


「……あなた、まさか」

「違います!!」


 テオが即否定。


「そうです。こいつはテオドールファミリーのカポ」


 ローレンツが床から言った。


「黙ってろ」


 テオが言うも、令嬢はゆっくりと立ち上がる。


「……失礼しますわ」


 冷たい声。

 ブルーノを見る。


「ブルーノ・フォン・ヴァルトルト様がマフィアの一員だったなんて、幻滅したしました」

「あの、俺はブルーノ・フォン・ヴァルトなんですが」

「は?」


 令嬢が惚れていたのは似た名前の別人であった。

 以前、街中で暴漢を倒している若い騎士見習いを見たのが恋のきっかけ。

 そこから調べたところ、ブルーノ・フォン・ヴァルトルトというリート学園の生徒にたどり着いた。

 テオたちの二個年上。

 名前と体格が似ていたことで起こった不幸な勘違い。


「あなた……“あのブルーノ様”ではなかったのですね」

「……え?」

「私が好きなのは――」


 少し顔を赤らめる。


「……は?」


 ブルーノ、固まる。


「勘違いでしたわ」


 にっこりと微笑む。


「では、ごきげんよう」


 そのまま去っていく。

 沈黙。


「……え?」


 ブルーノが呟く。


「え?」


 ローレンツも呟く。


「え?」


 テオも呟く。


「……何しに来たんだ俺たち」


 テオが呟いた。


「ボス、医者に連れて行って……ください……」


 しばらくして、担架で運ばれるローレンツ。

 いまだ放心するブルーノ。

 ざわつく店内。


「まあ、こういうこともあるさ」


 テオは慰めた。


 翌日のリート学園。

 テオとエリザベートのデートの話が広まっていた。


「御姉様があんな野蛮人とだなんて」


 エリザベートをひそかに慕っていた女生徒の嘆き。


「テオ、私というものがありながら……」


 女教師の歯ぎしり。


「風紀をみだしおって!!」


 殿下の怒り。

 それら全てがテオの耳に入ってくる。


「ああ……」


 天を仰ぐ。


「ああ……俺は何故異世界でこんな目に……」


 誰も答えない。

 ただ。

 また一つ、誤解だけが増えていた。


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