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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第26話 決勝

 控え室。

 テオは鏡の前で立ち尽くしていた。


「……もう無理だろこれ」


 メイド服。

 胸元はさっきの試合で裂けている。


「これで戦えって無茶だろ……」

「大丈夫よ」


 背後からリディア。

 息が荒い。

 テオの姿を見ての興奮である。

 思わず後ずさりするテオ。

 リディアは軽くしたうちするも、すぐに笑顔になった。


「安心して。こんなこともあろうかと、着替え、用意してあるから」

「嫌な予感しかしない」


 リディアが荷物を開ける。


「ほら」


 出てきたのは、黒基調のフリルとレース。


「……何それ」

「ゴスロリメイド服」

「帰りたい」

「クラシックなメイド服の予備よ」

「どこで買ったんですか?自分で着ましたか?」

「なんで私が着なきゃならないのよ。可愛い子に着させるために買ったのよ」


 テオはどっと疲れた。


(なんで戦いの場以外で精神削られてるんだよ)


 その時である、二人の会話を止めるだけの音が聞こえてくる。


 どおおおおお!!


 外から大歓声。


「……なんだ?」

「決まったぞ!!」

「殿下が!!」


 テオは駆け出した。


 リング中央。

 シャルロッテが立っている。


「ふう。思ったより強かったわね」


 その足元。

 倒れているのは、兄のレオンハルト。


 動かない。


「……おい」


 テオは息を呑む。

 二年生きっての凶暴な問題児。

 本職のマフィアでさえ道を譲るのは、家名よりも殴られたくないからという存在。

 それが転がされていた。


「変身するまで追い込まれちゃったわ」


 シャルロッテは笑う。


「ちょっと加減を間違えたかも」


 観客席はざわめく。


「何が起きた?」

「一瞬だったぞ……」


 圧倒的。

 それが全てだった。

 聞こえてくる言葉で、テオはなんとなく試合内容を把握できた。


 テオはレオンハルトを見る。


「……大丈夫?」


 反応はない。


「医務室へ!」


 担架が運ばれる。

 運ばれていくレオンハルト。


(格が違う)


 シャルロッテがこちらを見る。


「決勝で当たる事を、楽しみにしてるわ」


(こいつ……楽しんでやがる)


 テオは奥歯を強く噛んだ。


 そして――


「準決勝、終了!」


 テオは順調に勝ち進む。


「決勝戦――」


 大歓声。


「テオドール・フォン・ベルンシュタイン」


「対」


「シャルロッテ・フォン・アルテンベルク」


 さらに歓声が爆発する。


「来たぞ!!」

「決勝だ!!」


 観客席は最高潮。

 お祭り騒ぎである。

 ジークフリートをはじめとして、伝統派貴族の生徒たちは、テオがシャルロッテにボコボコにされるのを早く見たいと思っていた。

 そして、ボスの勝利を疑わない構成員たち。


 テオは静かに立つ。


(……逃げ場なし、か)


(どうする)


 シャルロッテは余裕の笑み。


「手加減なんてしないでよね。この場では身分なんて関係ないんだから」

「勿論です」


 テオは目の前の強敵とどう戦うかを考える。

 しかし、無情にも時間は来てしまった。


「決勝戦――開始!!」


 歓声が爆発する。

 テオは最初から全力だった。

 魔力を使って身体強化すると、地面を強く踏み込む。


 ばっ。


 土を固めて作られたリングが抉られ、土煙が舞い上がる。


(まずはこれだ)


 視界を奪う作戦。

 足でリングを抉り続け、土埃の量を増やした。

 濃霧のような土埃で、テオの姿は誰からも見えなくなる。


「へえ」


 煙の向こうからシャルロッテの声。


 次の瞬間。


 ぶわっ。


 強風。

 煙が一瞬で吹き飛ばされた。


「ああ、そうくるか……」


 空中を見上げる。

 そこには女王蜂の姿のシャルロッテ。

 彼女もまた、魔力を使って変化していた。

 羽は飾りではなく、飛翔能力を持っていた。

 その羽が作り出す強風が、土埃のカーテンを消し去った。


「視界を奪うのは悪くない作戦だったけど、私には無意味だったわね」


 そこから急降下。

 針や足による攻撃。


「人は空からの攻撃に対処できるようにはなっていないの。さあ、どうするの?」


 サディスティックな笑み。


(やっぱりそう来るか)


 そこからは防戦。

 避ける。

 避け続ける。


「女は殴りたくない、とか言わないでね?」


(俺が反撃できないのを楽しんでいるよなあ……)


 テオはシャルロッテの性格の悪さを痛感していた。

 そして、この殿下の将来の夫に対して同情した。


 時間が過ぎる。


「……つまらないわね」


 シャルロッテが高度を上げる。

 テオが防戦のみで、変化のない戦いに飽きたのだった。

 だから、ここまでで終わりにしようとおもったのである。


「死なない程度にはしてあげるわ」


 急降下。


(まずい)


(当たれば死ぬ)


(いや、まて)


(ここで逃げてもおわりだ)


(ばらされる)


(ならば、ここで一か八かの勝負だな)


 ここで、テオは魔力を止めた。

 完全に無防備。


「――!?」


 シャルロッテの目が見開く。


(このままじゃ殺す)


 彼女も魔力を止める。

 変身が解ける。


 その一瞬。


(ここだ)


(賭けに――)


(勝った!!!)


 テオは再び魔力を流す。

 女体化。

 一気に踏み込む。

 落下してくるシャルロッテに、拳を突き出した。


 ドン。


 シャルロッテの体がくの字に曲がり、落下の軌道もくの字に変わった。

 背中をリングに叩きつける。


 沈黙。


 シャルロッテは動かない。

 審判も固まっていたが、慌てて宣言をする。


「勝者――テオドール・フォン・ベルンシュタイン!!」


 歓声とどよめき。

 そして悲鳴。


(……ギリギリ)


 勝った。

 その時。


「……やるじゃない」


 シャルロッテが微笑む。

 生まれたての小鹿のようにフラフラだった。


「殿下が油断しただけですよ」

「それも実力よ」


 目を閉じる。

 闘技場は興奮に包まれていた。


(……終わった)


 だが。


 これはまだ始まりに過ぎなかった。


 決勝の熱気が、まだ残っていた。


「優勝者――」


 アナウンスが響く。


「テオドール・フォン・ベルンシュタイン」


 歓声。

 その中心で。

 テオは、なんとも言えない顔をしていた。


(終わった……)


 安堵と疲労。

 だが。

 視線が痛い。

 特に。

 正面。

 ジークフリート。

 苦虫を噛み潰したような顔。


(絶対納得してない)


 台の上。

 ジークフリートは宣言した。


「戦いの場にメイド服を着てきたこと、これは品位を著しく欠く行為。したがって、優勝はしたが、騎士団への推薦は無しだ」


 圧倒的ブーイング。

 勿論、それは殿下に向けたものではなく、品位を欠いたテオに対してだった。

 しかし、テオは安堵していた。

 騎士団など、入ったところでいじめられるのがおち。

 それほどまでに、ベルンシュタイン家は嫌われているのだ。


 シャルロッテがテオの前に立つ。


「おめでとう」

「……どうも」

「推薦の話はなくなったけど、私から代わりに渡すものがある」


 次の瞬間。


 ぐいっ。

 距離が近づく。


「――え?」


 理解が追いつく前に引き寄せられる。

 唇が触れた。


 一瞬、沈黙。


「きゃあああああ!!」


 悲鳴が爆発。


「キス!?」

「王女殿下が!?」


 エリザベートは口をぱくぱく。


「……は……?」


 思考停止。


(私の……ご褒美……)


 リディア。

 ハンカチを噛み、引っ張る。


 血涙。


「若いって……いいわね……!!」


「婚約だ!!」

「王族の口づけだぞ!!」


 観客は勘違い。


(違う違う違う)


 口をふさがれているテオは、心の中で否定した。

 その時。


「勘違いしないで」


 シャルロッテが唇をはなして囁く。


「これは祝福じゃないわ」

「……は?」

「復讐よ」


 微笑み。


 だが目は笑っていない。


「必ずやり返すわ」


(うわ)


(めんどくさいのに目をつけられた)


「……何をしている」


 ジークフリートがシャルロッテに怒る。


「いいじゃない。盛り上がったでしょ?」


 会場は騒然。


 テオは立ち尽くす。


(なんでこうなるんだよ)


 戦いは終わった。


 だが。

 面倒ごとは、これからだった。


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