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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第25話 麗しの姫と虎

 闘技場。

 ざわめきが、波のように広がっていた。

 既に二回戦。  観客の熱気は、先ほどまでとは明らかに違う。


「テオドール・フォン・ベルンシュタイン 対 ディートリヒ――」


 歓声が爆発する。

 リング中央。

 ディートリヒは一歩も動かず、ただテオを見つめていた。

 その視線は、明らかにおかしかった。

 敵を見る目ではない。


 もっと別の――


(なんでそんな目してんだよ……)


 ぞわりと背筋に寒気が走る。

 逃げ場を塞ぐように、視線が絡みつく。


「麗しの姫……できれば」


 低い声。


「女性は殴りたくない。それが愛する人なら尚更」


 沈黙。

 圧倒的勘違いである。


「……は?」

「今なんて言った?」

「女?」

「服はメイドだけど、中身は男だろ」

「愛する人?」


 観客席がざわつく。

 ジークフリートが眉をひそめた。


「……頭でも打ったのか、あいつは」


 一方。


「ふふっ……あはははは!」


 シャルロッテ、大爆笑。


「いいわねこれ!トーナメントをやった甲斐があったわ!」


(絶対お前のせいで……)


 テオは遠い目になる。


(いや待て)


(なんでこんな状況になってるんだ)


 冷静に考える。

 メイド服。

 トーナメント。

 風紀委員に女扱い。


(意味がわからない)


(いや全部あいつのせいか)


 視線だけでシャルロッテを睨む。

 当の本人は、腹を抱えて笑っていた。


(楽しそうで何よりだな、おい)


 殺意が湧く。

 だが。


「だが」


 ディートリヒの声が、空気を切り裂いた。


「これは殿下の命令だ。女だとて容赦はしない。諦めろ」


(こっちも殿下の命令なんだよ……)


 最悪だった。

 殿下違いであるが、どちらの殿下も自分を放っておいてくれない。

 空を見上げる。

 神からの返事はない。


(帰りたい)


 心の底からそう思った。


「――始め!」


 号令。

 瞬間。

 ディートリヒの身体が変形する。

 骨が軋み、筋肉が膨れ上がる。

 巨大な虎。

 観客がどよめく。


「うおおお!?」

「変身系か!」


 だがテオは驚かない。

 既に見たことがある。

 そして。


(負けたら終わりだ)


 魔力を流す。

 身体強化。

 出し惜しみはできない。


(ちょっとだけ……ほんとにちょっとだけ感謝してる)


 リディアの秘策。

 メイド服という名の隠蔽。

 なければ今頃、完全に詰んでいた。


 虎が突進する。

 速い。

 だが。

 テオは紙一重でかわす。


 風が頬をかすめる。


(ばれてないか……?)


 一瞬。

 視線が揺れた。


 観客。

 シャルロッテ。

 ジークフリート。


(大丈夫か……?)


 油断。

 その一瞬。


 ドン。


 胸元に衝撃。

 布が裂ける音。

 メイド服が破れた。

 白い肌が、わずかに覗く。


「――!」


 慌てて腕で胸を隠す。

 だが。

 遅かった。

 ディートリヒの目。

 強化された動体視力。

 その一瞬を、確実に捉えていた。


「……な」


 硬直。

 次の瞬間。


 ぶしゅっ。


 勢いよく噴き出した鼻血が、空中に弧を描いた。


「……は?」


 誰かが間の抜けた声を出す。

 そして。


 ドサリ。


 ディートリヒが崩れ落ちた。

 戦闘不能。

 完全沈黙。

 誰も、何が起きたのか理解できない。


「……え?」

「え?」

「……え?」


 困惑の連鎖。


「今、何が起こった?」

「攻撃してないよな?」

「してない」

「じゃあなんで倒れた?」


 ざわめきが波のように広がる。


「見えた?」

「見えてない」

「でも何か見えた気がする」


 意味不明な会話が飛び交う。


「触れてもいないのに倒した……?」

「やばくない?」

「呪い?」

「魔眼じゃないか?」

「いや聞いたことないぞそんなの」


 評価だけが、勝手に積み上がっていく。


(やめろ)


(変な評価を積み上げるな)


 必死に否定する。

 だが当然、誰にも届かない。


 リディアもなぜか鼻血を出していた。

 理由は考えないことにした。


「……かわいい」


 ぽつりと誰かが言った。


「いや待て男だぞ」

「関係あるか?」

「ないかもしれない」


 価値観が崩壊する。


「俺、入るわ」

「何に?」

「ファンクラブ」


 誰かが言った。

 なぜか数人が頷く。

 意味が分からない。


 だが。


 確実に何かがおかしかった。

 エリザベートも固まっていた。

 視線はテオに向けられたまま。


 何かが変わった。


 マフィアの息子であり、自身も学園内でファミリーを結成するという、恐怖の対象だったはずの存在が、別の何かへと変わった瞬間だった。


「勝者――テオドール!」


 歓声が爆発する。

 そして、この瞬間。


 “テオファンクラブ”が誕生した。


(なんでこうなるんだよ……)


 テオは心の底から思った。

 空を見上げる。

 やはり神は何も答えない。


(ああ……俺は何故異世界でこんな目に……)


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