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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第22話 追い打ち

 夕日が沈む。

 長く伸びた影の中で、テオは一人立ち尽くしていた。


(いっそ、女体化の秘密をこちらからばらしてしまえば――)


 弱点を自ら晒すことで、相手のもつアドバンテージは無くなる。

 が、しかし、そこまで踏ん切りはつかなかった。

 ただでさえマフィアであり、新興貴族という目で見られているのに、そこに女体化するという情報が付加されて、好奇の目で見られるのが堪えられなかった。

 それに、ディートリヒのような同性からの求愛も遠慮したかった。

 異性ですら問題児だらけだというのに……


(このまま平穏無事に卒業できる気がしない……)


 その予感だけが、はっきりしていた。


 ――そして。


「ボス!」


 静寂をぶち壊す声。

 テオはゆっくり振り向いた。

 そこには。

 ローレンツとブルーノがいた。


(……なんでいるんだよ)


「ちょうどよかったです!」

「ちょうどって、待ち伏せしていたろ」


 テンションがさらに下がるテオ。正直相手にしないで帰りたかった。

 しかし、ローレンツがやたらテンション高く詰め寄ってくる。

 包帯はまだ巻いたままだ。

 逃げられないし、無視しようにも、無理やり視界に入ってくる。


「新規事業のご提案があります!」


 その話題は聞きたくない。


「傷はどうした」

「気合で治しました!」

「治ってないだろ」

「ほらこの通り!」

「誰かの怪我が治らなければいいと思ったのは初めてだよ……」


 憎まれっ子世に憚るという言葉を実感するテオ。

 この言葉を考え出した誰かを恨んだ。


 一方ブルーノは腕を組んでいた。

 いつも通り、真剣な顔。


「ボス」

「今度はブルーノか。それで?」

「敵対マフィアのアジトを突き止めました」

「その先は言わなくていい」

「今すぐ壊滅させましょう」

「言わなくていいって」

「言わなくていいとは、つまりすぐに乗り込むのは決まっているということですね!」


 嬉しそうなブルーノを見て倒れそうになる。


「ちょっと待ってくださいよ!」


 ローレンツが割り込む。


「そんな野蛮なことしてる場合じゃないんです!」

「何が野蛮だ」


 ブルーノの眉がぴくりと動く。


「時代はビジネスです!」


 ローレンツはびしっと指を立てた。


「カジノです!」

「は?」

「カジノですよカジノ!」


 目が輝いている。


「胴元が勝つ仕組み! 合法的に金が回る! そして!」


 ぐっと拳を握る。


「楽して儲かる!!」

「最後本音だろ」


 テオの目の前が真っ暗になる。

 脳が会話を拒否しているのだ。


「想像してください!」


 ローレンツは勝手に盛り上がる。


「煌びやかなホール! 貴族たちが金を落とす! 我々は座っているだけで利益が!」

「ひとりでやってくれるかな……」


 ブルーノが一歩前に出る。


「ボス」

「なんだ」

「敵を潰せば縄張りが増えます」

「そうだな」

「そこに店を作ればいい」

「なぜ?」

「勢力拡大です」

「違いますよ!!」


 ローレンツが叫ぶ。


「まずカジノです! 暴力に頼る時代は終わったんです!」

「力がなければ奪われるだけだ。コンシリエーレの貴様がそんな弱腰でどうする!」


 ブルーノの声は低い。


「敵は潰す」


 ブルーノが拳を強く握った。


「結局暴力じゃないですか!!頭を使いなさい」

「俺たちファミリーの前には、小賢しい知恵など無意味。ボスの力は全ての問題をぶち壊す!」


(いや、俺は今その問題を解決できなくて悩んでいるんだが……)


 テオは額に手を当てる。


「そんなちんけなビジネスしか考えられんやつがコンシリエーレの資格はない」

「そんなちんけなとは何ですか!!」

「そんなちんけなことだ」


 ぎゃあぎゃあと言い争いが始まる。


「金がなければ何もできません!」

「力がなければ守れない」

「効率が悪い!」

「弱いからだ」

「論点が違う!!」

「同じだ」


 テオはしばらくその光景を見ていた。

 夕日の中で。

 包帯の男と、筋肉の男が、全力で言い争っている。


(……早く帰らせてほしい)


 数時間前。

 王女と契約を結ばされた。

 学園生活を縛るレベルの。

 なのに今。


(なんでこんなことで悩まなきゃいけないんだ)


「ボスはどっちですか!」

「壊滅作戦を!」


 二人が同時に振り向く。

 テオは深く、深くため息をついた。


「……どっちもやらない」


 沈黙。


「え?」

「は?」

「今日は帰る」

「「は?」」


 テオは踵を返した。


「待ってくださいよボス!!」

「指示を!」


 背後から声が飛ぶ。

 だが。


(もう知らん)


 テオは歩き続けた。

 夕日は沈み。

 夜が来る。


(ああ……俺は何故異世界でこんな目に……)


 その問いに答えてくれる者は、誰もいなかった。


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