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マフィアの息子ですが、普通に学園生活を送りたい ~なぜか学園にファミリーが出来ました~  作者: 工程能力1.33


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第21話 契約

 放課後。

 人気のない教室に、静かな足音が響く。

 テオは扉の前で立ち止まり、深く息を吐いた。


(……どう説明すればいいんだ)


 頭を抱えたくなる。

 女体化が王女に目撃された。

 しかもあの反応。


(絶対面倒なことになる)


 その確信だけはあった。

 そんなシャルロッテに呼び出されているが、その前に立ち寄るべきところがあった。


「入っていいわよ」


 中から声がした。


 リディア・フォン・アルクレイン。


 この学園の教師であり、数少ない“事情を知る人物”。

 テオは扉を開けた。

 教室の中。

 夕日が差し込み、リディアは窓際に立っていた。


「遅かったわね。相談ってなにかしら」

「バレました」

「でしょうね」


 振り返り、笑顔で言う。

 陰鬱な表情のテオとは対照的だった。


「顔に書いてあるわ。“やらかしました”って」

「書いてない」

「書いてるわ」


 断言だった。

 テオはため息をつく。


「バレたし、もうお終いです」


 しばしの沈黙。


「誰に?」

「シャルロッテ殿下」


 再びの沈黙。

 数秒後。


「終わったわね」

「やっぱり?」

「ええ、かなり」


 あっさりだった。

 リディアもシャルロッテの性格は知っている。

 あの王女がこんな面白いことを放置するはずがない。


「それと、リザ。いや、エリザベート・フォン・ローゼンベルクにも」

「あら、愛称で呼ぶなんて妬けちゃうわ」


 口をとがらせ、茶化すリディア。

 まあ、半分は本気の嫉妬ではあるが。


「で、も問題?」

「夢だと思っています。殿下が乱入してきたところで気を失ったので」


 一瞬の沈黙のあと。


「は?」

「幻覚扱い」


 リディアは笑い出した。


「つまり“存在しない幻の美少女”のままね。実らぬ来いって可哀想」

「やめてくださいよ」

「完全に悲劇のヒロインじゃない」

「どちらかといえば、僕の悲劇なんですが」

「喜劇とは本人にとっての悲劇。人間は他人の不幸を見て笑うの。哲学の授業で習うわよ」

「今はそんな哲学の講義を聞きたいわけではないので」


 テオはリディアに相談しに来たことを後悔した。

 そんな空気を彼女も察知し、やがてリディアは真顔に戻る。


「シャルロッテ殿下にバレたのはまずいわ」

「どうすればいいと思います?」

「乗りなさい」

「……は?」

「どうせ逃げられないなら、“女のあなた”を使いなさい」


 テオは頭を抱えた。


「解決じゃないですよね……」


 リディアは一歩近づく。


「それでも、全部嫌になったら――」


 さらっと言う。


「私が養うから」


 沈黙。


「……は?」

「一緒に暮らしましょう?」


 にっこりと笑う。

 だが、その笑顔はとても危険だった。


「可愛い子は大歓迎よ」

「やめてください」


 テオの背筋に悪寒が走る。


「大丈夫よ、ちゃんと可愛がってあげるから」

「よだれを垂らしながら言われると、不安しかないんですけど」


 リディアはくすくす笑った。


「冗談よ」

「絶対違う」

「半分くらい」

「半分は本気じゃないですか」


 沈黙。


「なんの解決にもなりませんでしたね。これから殿下のところに行ってきます」

「浮気は駄目よ」

「誰が誰に対しての浮気ですか」


 そういうテオには元気が無かった。

 肩を落としてシャルロッテのところに向かう。

 


「遅いわね」


 指定された教室で、夕日を背に立っているのは、シャルロッテだった。


「待たせてしまい、申し訳ございません」

「ええ。逃げ出したかと思っていたわ」


 くすくすと笑う。


「逃げたらばらすのでしょう?それは嫌なので逃げませんよ」


(遊ばれている)


 テオは内心で舌打ちした。


「何の用ですか?」

「決まってるじゃない」


 くすりと笑う。


「あなたの“秘密”の話よ」


 背筋に冷たいものが走る。

 だが、ここで動揺したら終わりだ。

 緊張するテオに対し、シャルロッテは一歩、近づく。

 距離が近い。


「女の姿」

「……」

「綺麗だったわよ。ディートリヒが男色になったのかと思ったけど、本物の女の子に恋していたとはね」


 早く要求を出して欲しい。

 そんな焦りがあったが、自分を落ち着かせるため、テオは深く息を吐いた。


「どこを気に入りましたか?」

「全部」

「そうですか」


 沈黙。

 逃げ道はない。


「で?」


 シャルロッテが首を傾げる。


「どうするの?」

「何をですか?」

「このままバレてもいいの?」


 テオは一瞬だけ考える。

 そして結論は一つだった。


「それだけはご寛恕ください」


 頭を下げる。

 失敗していないのに、ご寛恕とは変であるが、広い心で許してくださいという気持ちの表れ。

 知っている中で一番のお願いの言葉であった。


「黙っててほしいです」


 静かな教室に、その言葉が落ちた。

 シャルロッテは少しだけ目を見開いた。

 だが次の瞬間には、楽しそうに笑っていた。


「いいわよ」


 あっさりだった。

 だが。

 その“あっさり”が一番危険だと、テオは知っている。

 どうせろくでもない条件が提示されるはずだ。


「ただし」


 来た。


「条件があるわ」


 顔を上げる。

 シャルロッテは楽しそうに指を一本立てた。


「私を退屈させないこと」


 テオは眉をひそめる。


「……それだけですか?」


 シャルロッテは、くすりと笑った。


「ええ、それだけ」


 そして。


「でも、それが一番難しいのよ?」


 背筋が寒くなる。


「具体的には」

「簡単よ」


 あっさりと言う。


「面白いことをしなさい」

「は?」

「あなた、面白いのよ」

「自覚はないですが……」

「自覚するべきね」


 一歩、さらに近づく。


「女の姿もそう」

「うっ」

「エリザベートの反応もそう」

「うっ」

「クラウディアも絡んできそうだし」

「うっ」


 三本の矢が胸に突き刺さる。

 毛利元就が教えたのは一寸違うけど、死に至ること必至。


「だから」


 シャルロッテはにっこり笑う。


「私に“面白さ”を提供しなさい」


 言っている口調は軽い。

 だが。

 それがどれだけ重い条件か、テオには分かっていた。


「……断ったら?」


 一応聞く。

 シャルロッテは少しだけ考える仕草をして。


「さあ?」


 と、笑った。


「その時は……私が面白くなるようなシナリオを考えるわ」


 ぞくり、と背筋が震えた。


(最悪だ)


 これは交渉じゃない。

 選択肢もない。


「……分かりました」


 絞り出すように言う。


「やります」


 シャルロッテは満足そうに頷いた。


「いいわ」


 そして、くるりと背を向ける。


「期待してるわね」


 軽い声だった。

 だが、その一言で全てが決まった。

 去っていく背中を見送りながら、テオは思う。


(……終わった)


 いや、違う。


(始まった、か)


 この契約は崩壊の序章かもしれない。

 ただの口約束じゃない。

 逃げられない。

 拒否できない。


 そして――


 その予感だけが、はっきりしていた。


 夕日が沈む。

 長く伸びた影の中で、テオは一人立ち尽くしていた。


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