第六節「かつての青年」
「こちらです。神徒様はすでに中へ」
シャクカディ神徒の元へは、思ったより早く辿り着いた。
……と、言うより、コッパーの居室で居合わせた他の神下が、黒銅の民が探しているとシャクカディに伝え、部屋を用意したらしい。
……となると、やはり、たまたま案内につけた神下が、ことさら足が遅いだけだったようだ。
まあ、とにかく好都合だ。
シャクカディを追って彼らの仕事ぶりなどを見てしまえば、どうしたって気を取られるだろう。
扉を開くとシャクカディは両手で杖を支えて座っていた。
急ぎ慌てて来た昨日とは違う、乱れのない姿。
コッパーと目が合うとすぐ、杖に力を込めて立ちあがろうとする。
「コッパー様!いやはやご足労頂き恐縮にて……」
「かまわない。座っていろ。脚が悪いのだろう」
「ああ……お優しい……」
シャクカディは目を潤ませて脱力するように腰掛けた。
たるみかけた瞼の描く表情では、感動屋なのか芝居がかっているのか判断つかない。
「わたくしなぞに何かお聞きになりたいと……?」
「そうだ」
挨拶もそこそこに、シャクカディは本題を切り出す。
シャクカディ自身も呼び出された理由が気にかかって仕方なかったのだろう。
用件が用件と思い人払いをし、この場にコッパーとシャクカディだけになったのも、きっと緊張を煽った。
「……シャクカディは……」
「はい」
思ったより早く対面することになったコッパーの方も、まだ心の準備が足りていない。
これから聞くのは、ともすれば自分の過去に直接関わりがある出来事……。
「長く神徒をしているのか?」
「そう……で、ございますね!
22年ほどになりましょうか」
「それは……長いな」
なんらかの役職に上がるには十分な年月に思う。
この国には神徒や神下より細かい役職階級などは……いや、いや。
「はい、幸いにも長く」
こんな外周をなぞっていても仕方がない。
コッパーはシャクカディの誇らしげな微笑みを見てようやく決心する。
「お前は、過去、私に会ったと言ったな」
「はっ……はい。ええ。
私はそう思っておりますが」
昨日自分が動揺したために、シャクカディも多少自信を失ってしまったのか、語気が少し弱い。
「……悪いが、あまり覚えていないようだ。
いつ、どのように会ったのか改めて教えてくれないか」
「き、本日は……そのことで?」
「……ああ。まあ。そうだな」
シャクカディはとりあえず安心したのか、どこか気の抜けた顔で頷いた。
「それのことであれば……ええ。お答え致します。
あれは……1……2年前だったでしょうか?
はっきりとそのお顔立ちをよく覚えております」
「私の顔だったと?」
「人の顔を覚えるのは得意な方なのです。
面と向かえば……」
シャクカディは自分と相対する人の顔を思い描いたのか、目の前の空を手のひらでくるりと撫でた。
「しかし、あのときのコッパー様は……まだまだお若く、
背もまだ……私を少し超える程度であったかと。
体つきもすっくと、軽やかな様子でありました。
ただ、その深い黒を湛えた瞳、
均整の取れ、それでいて雄々しいお顔立ち。
あれは貴方様であったと……やはり確信があります」
「自信があるようだな?」
「はい!これに関しては」
シャクカディは得意げに鼻を吹く。
薄く生えた髭が揺れる。
「思い出されましたか?」
「……いや」
思い出すも何も。
コッパーは片頬を上げて薄く笑って見せた。
「いやいや、無理もありますまい」
「……どんな風に会った?」
「まさしくその話をば。
……と申しましても……コッパー様から言えば、
すれ違った、が良いところでしょう。
ろくに言葉も交わしませんでした」
あまり期待できない、とコッパーは思い始めた。
彼が初めから躊躇い一つなくこの名と呼ぶことを選んでいる時点で、大した仲ではなかったかもしれないとは思ってはいたが……。
「礼拝でお見かけしたのと、
この宮を見回ってらっしゃる時に、
何度か道を空けさせていただきました」
ここからは、姿や状況の詳細を少し聞き出すくらいしかできることはないかもしれない。
「そうか……その姿が立派であったと?」
「はい」
……しかし、そう思ったコッパーが相槌程度に続けた質問に、シャクカディは続けてこう答えたのだ。
「……しかしながら。今まで来た……
黒銅の民の長の中……幾人かの長の中でも
コッパー様はことに雰囲気が違っておりましたと、
そう言わせて頂きたい」
……長?




