第二節「配給の数」
「コッパー様は……すばらしい御方です……」
……と、クドグネは涙を流して感激している。
口周りに粉をつけて。
「——配給か……」
クドグネが涙を浮かべて咀嚼している向かいで、コッパーは今までの食事について思い返していた。
この国では個人が食事の内容や量、時間を決めることはできず、毎日決まった時間帯で食事を配給で受け取るらしい。
間食の習慣はなく、朝と夕にまとめて摂る食事のほかは入手も難しいという。
……クドグネは「黒銅の民は、国のことをわざと知らないふりをしている」という設定をよく理解しておらず、このように聞き取るにもいくらか苦労した。
「全国民にか?」
「……はい。ン量には……差があることもありますが……」
許したとはいえ、クドグネはいつまで経っても焦がし麦と乳酪を飲み込まずに反芻し続けている。
だが、彼がこういった間食を食べる機会も、ともすると一生のうちにあるかないかなのだろう。
……そう知った以上、早く飲み込めとも言いにくい。
「足りなかったり余ることはないのか?」
「ン無いと……おそらくは。
少なくとも……数を間違えることはな……いかと」
「数……?配給の数……どうしてそう言える?」
「3000人……必ず国民っは、3000人ですからね」
「……必ず?」
「エエ」
そこでようやく、クドグネは嚥下したようであった。
コッパーも乳酪を口に運んだ。ヤギの乳の濃さがある。
「国民の人数はいつも3000人です」
エラメンタ神国の国民は、常に同じ数?
コッパーの眉間に皺が寄る。
「そんなに妙でございますか?」
「そんなことが……あるのか?」
「ハイ。それを確認するのも
神徒様方のお役目でございます」
クドグネの態度に曇りはない。
答えられることには全て応じようという気合すら感じられる。
「……人は死に、子を産むだろう」
「そうですね?」
キュプレムには7歳を越えるまでを戸籍に数えない制度があるが……それが同様に神国に存在するならば、あるいは……。いや……だとしても……。
「……3人死んで1人産まれたら、
3000人ではなくなるだろう」
「あれ?そうですね。……でも
……前の礼拝の日も変わりなく、3000人でした」
質問の意図を理解し切れないようであったクドグネは、それを「数日晴れが続いた」程度の何気なさで言いのける。
その時、コッパーは直感的にこう思った。
——気持ちが悪い。
「神が連れて行ける上限であるとかだったと思います」
「……復活?」
「そうです!」
礼拝や教室での話をだいたい統合すれば、あの白い——神は、神の国に帰る力を復活させている途中であり、復活が成された暁には、信者を連れて神の国へ行くのだ……という話だったはずだ。
自分でもよく覚えていたものだと思う。
不本意ながら、プラムバム神官の言う通り、ある程度記憶力はいいらしい。
「復活の時に、神の国へ行く……」
「はい!」
「……そのとき……他の者はどうするんだ」
「他の者?」
コッパーは知っている限りの、一握りの黒銅の民の知識で問いを進める。
「国の外にも……いるだろう。
黒銅の民は……伝えて、広めているのだから。
新たに神を信じる者は……増えている」
国内の人数は、神が連れていける3000人に保たれる。
それは一度受け入れよう。
……黒銅の民は客人だ。国民3000人に含まれていない。
「神によく仕えた者が行けるのです。
我々は、神に最も近い場所で、仕えています」
「黒銅の民は、仕えていない?」
「……?」
——コッパーとて、自分の生きてきた黒民神話や文化の全てを知り尽くしているわけではない。
聞かれてみるまで理由を考えもしなかった、ということはままあることだ。
「そんな……ことは……、ん?」
だが、そうなれば、人は何がしか不安に思い、その問いに対して考え出す。
ようやく、クドグネの表情が動いたように思えた。
「……ああ!そこからは知りません。
天使様なら知っているかもしれませんが」
しかし、クドグネは、ぱっと思い出したようにそう言い放つと、また曇りのない顔へ戻ってしまった。
「我々のような身分の者が、考えるべきではないですよ」
コッパーはこの言い分を聞いたことがある。
身分の上の者に言い含められ、下の者はそれを信じる。
思考停止の考えだ。
奴隷にもよく見られるもので、こういった躾や言い訳は過去何度も聞いてきたし、コッパー自身も、そう考えるべきと努力はしてきた。
だが……違う。
何かが違うのだ。
「クドグネは……」
「ハイ」
その何かを捉えたくて、コッパーは質問を重ねていく。
クドグネのつるりとした斜視に、窓の外を飛ぶ鳥が一瞬写って瞬いた。




