表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/65

第七節「プラムバム家のティカシウ」

「……そうだな。改めて、名乗ってくれ」

「は……神官、プラムバムでございます」

「家族はないのか」

「……なぜ、そう思われます?」

「家族のあるものは家の名と名前を言うものだ」


名前を名乗らないと言うことは、区別する必要がないと言うこと。

あの天使がアグと呼ばれないように。


「確かに……そうでございますね。

 名は……ティカシウ、でございます」

「ティカシウ(傑出)?」


悪い意味の名ではないが、軍人や競技者、または商売気の強い家系の好む、血の気の多い名前だ。


「似合わない名だと思われたでしょう」


コッパーは心を読まれたように思い、つい息が詰まる。

彼は困ったような微笑をして、こう続けた。


「よく言われますよ。主にバルコタの方々に……」


バルコタ。それで思い出した。

三神官の中の関係性についても聞きたいと思っていた。


あからさまに敵視を表すグスタ神官。

そんなグスタ神官の振る舞いを(とが)めつつ、姉のルニーカ神官も……神官らに初めて会ったあの広間で、天使に見えぬようにわずかに笑んだあの顔を妙に思って覚えていた。


――呼び立てたはずですが。まさか、天使様のお呼び立てに応じないと?


今思えば、本当に伝達が行っていたのか。

……陰湿なことだ。


「バルコタ家の二人とは仲が悪いようだな」

「まさか……」


そう言って間が空くと、プラムバム神官は乾いた笑い声を漏らし、伏目(ふしめ)がちに続けた。


「私が嫌われているだけですよ」

「なぜ?」


あまり語りたくないのであろうことは苦々しい表情から察しはしたが、こればかりは好奇心が優った。


「……わざわざお聞きいただくような話では」

「かまわない」


プラムバム神官は額に拳の横を軽く触れ、何か少し考えたのち、まっすぐ目を合わせてきた。


「……いえ……そうですね。

 むしろ、今聞いて頂いた方がよろしいかもしれません。

 ……既に、色々とお聞きでしょうが、なればこそ」


……確かに、グスタ神官から、ヂディスから、散々な()は聞いている。

コッパーはくぐもったうなり声を漏らしはしたが、

あくまで返答そのものは控えた。


「……理由は、いくつかあるのでしょうが、

 私の父が(たん)を発していると認識しております」


――そうそう、あの若造はほんにタリアスによく似ておりますよ。


「……タリアス?」

「え?……ああ……やはりお聞きになったのですね。

 グスタ神官でしょうか?」


プラムバム神官は諦めのこもった暗い瞳で微笑んで問う。


「……教室で何度か言っていた」

「やはり、そうでしょうね。

 では、母の名も出たのではないですか?」


――ティヌムは何を考えていたのか。すっかりあの男にしなだれて…。


「……ティヌム?」

「コッパー様は記憶力が良くていらっしゃる」


プラムバム神官は再び暗く薄く笑う。

記憶を失った身で、記憶力が良いなどと言われるのは皮肉なものだ、とコッパーは思う。


「それが名か」

「ええ。それが……ティカシウ・プラムバムの父母の名でございます」


コッパーは、改めて確認する。


「……今、お前の父母はもういないのだな」

「ええ。プラムバム家は今や私1人にございます」


やはり。タリアスもティヌムも過去の人物なのだ。

家柄があるのに彼が家の名で呼ばれると言うのはそういうことだ。


「もともと子の少ない家なのです。

 先先代の神官、つまり祖父母にあたる方は

 私の生まれるより前に亡く、

 その後を継いだ父、タリアスも数年前、事故で……。

 ティヌムは病で」

「……難儀(なんぎ)なことだな」

「なに、そう珍しいことではありません。

 神官という立場上、目立ってしまいますがね」


コッパーは彼を特別に重用(ちょうよう)する天使の心持ちが多少理解できるようになってきた。

彼の境遇に起因するのであろう(たたず)まいや所作に出る哀れさは、あの生気溌溂(せいきはつらつ)なバルコタ家を側に控えればこそ、過分に気にかかるだろう。


「さて……改めて。

 バルコタ家に嫌われている理由……でしたね?

 生まれる前のことを父と母と呼ぶと多少妙ですから、

 あえて名前で呼ばせて頂きたい」

「好きにしてくれ」

「ありがとうございます。

 まあ、さして愉快な話でもありませんが……」


プラムバム神官はそこで少し腰を上げ裾を椅子の間にきれいにしまい、居住まいを正した。


「おそらくバルコタ家の不興を買ったのは、

 ティヌムとタリアスが婚姻を結んだからでしょうね。

 ティヌムは神官プラムバム家の唯一の息女で、

 タリアスは神下の出でした」


神官と神下の身分を超えた婚姻。

これについては既に噂で聞いていた。


「婚姻を結べたのか」

「ええ……タリアスは神徒になり、その後に」

「神徒に……()()()?」


彼らの階級について、コッパーは

黒民と灰民の関係のようなもの、と認識していたので、この話には驚く。

神下と神徒には(くつがえ)せない差があるのだと思っていたのだが……。


「可能なのか」

「……難しいことですが、天使様の承認があれば」

「では、お前の父にはその承認が出たのだな」

「はい。……タリアスは神のためによく働いたと。

 天使様の覚えも良く、そして、その上、

 神官、プラムバム家の強い推薦(すいせん)がありました」

「ティヌムが神官だったのか?」

「いいえ。ティヌムの父がその時は神官でした」


……なるほど。

神下、神徒、神官は、一応は、あくまで階級なのだ。

簡単ではないが、働きと承認によって変動があり得るもの。


「その際、バルコタ家の了承を得たわけではなく……

 得る必要は、ないのですがね。

 そういった動きが、タリアスだけでなくティヌム、

 プラムバム家への心象まで悪くしたのでしょう」


階級なのであれば、身分ほどではないにせよ

それなりに通すべき筋があることは理解できる。

制度としては許されても、暗黙の了解というものがある。


「つまり、そうしたことで……バルコタ家は、タリアスも、

 タリアスを神徒に推薦したプラムバム家も気に入らず、

 それらの血を引き、かつまだ若造の私が神官になった、

 そのことも気に入らない。

 ……のではないか、と……

 おおまかに言えばそういったことなのです」


プラムバム神官は質問により少しずつ分散した話を、

一息にまとめ上げてみせた。


内容に難しいことはない。

役職名のほかは……世にありふれていて、明快なことだ。


だが、……コッパーは思う。


彼は、重要なことを隠している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ