第五節「方針」
いつの間にか眠っていたようで、目を覚ませば窓張り布を通じ部屋に差す光が強くなっていた。
日の高さを考えれば、昼を過ぎて久しい。
体はずいぶん楽になっている。
喉元を撫でれば、ぬるい汗がぺたぺたと張り付いた。
手を叩き神下を呼び入れ、着替えを行わせる。
人数が少なく、またコッパーの全身を拭うにしては皆小柄で、少々難儀する様子だった。
コッパー自身も伸ばされる手を待って立ち続けるのは億劫だったので、途中からは布を奪って自分で拭いてしまった。
そして水を飲み、身繕いが済んだらまた人払いをした。
寝具の上で水の入った椀を手にしながら壁にもたれて座る。
熱はすっかり下がり、この後に汗が噴き出す気がしない。
まだ頭はぼうっとしている。
病床とはいえ、自分の意思一つで操作できる、誰にも監視されない一人の時間を持てることが、今まであっただろうか。
かつてなく安らかだ。
しかし、ただ何も考えずにいることもできない。
使命としてもそうだが、生来の性格がそれを許さない。
この国に来てから、考えることが、思い出すことが、思い出さなくてはいけないことが、ありすぎる……。
まず、何をすべきだろうか。
どの情報から集めるべきか?
自分が誰か、この国は何なのか。
そんな大きなことを考えるのはきっと早い。
それに他のことを調べるうちに、いつか辿り着くような気がするのだ。
小さいことでも、片っ端から調べて、少しずつ知るべきことの全貌を明らかにするべきだろう。
……そういえば……
期限は無いのか?
天使は、この国が滅びると言っていた。
危機に瀕している、と……。
窓の隙間を広げた。
快晴。
砂と岩の手前の家々、奥に見える一面の緑。
牧歌的ともとれる、穏やかな景色が広がっている。
とても滅びの危機に瀕している国の姿には見えない。
いや、不穏なものはいくつかあった。
工房。
奇跡。
逆落。
逆神の儀。
胡乱だ。
だが、あれらが危機の象徴なのかはわからない。
コッパーにとっては、そもそも、この国の礼拝も、すこぶる居心地が悪かった。
そういえば……
あの白き神に会うことは今後あるのだろうか。
礼拝は5日に一度と聞いている。
一昨日に礼拝があったのだから、今日でちょうど中間。
明後日には姿を見ることはできるだろう。
しかし、神と直接話す機会はあるのだろうか。
昔語りの中で言う黒銅の民なら、その権限はあるはずだが……。
いや、可能性が不明なものは今考えても仕方がない。
それに、体力が万全でないうちに深い話をしてしまうとまた熱が出てしまいそうだ。
プラムバム神官に国の話を聞くことも、今日のところは控えたい。
当面、この体力で何かできそうだと考えるなら――……
いや、待て。
そもそも、自分の使命は「記憶を取り戻すこと」であり、
「この国について知り尽くすこと」ではない。
それに、もし自分の中にある記憶が戻り、それがこの国と関係があるならば、それを思い出しさえすればこの国のことは自ずと全て理解できるはずだ。
とにかく、予定としては自分の身の上を調べるほうが先だろう。
まずは、シャクカディ神徒をこの部屋に呼び話を聞こう。
そして、天使ともっと話をするべきだ。
自分について、何を知っているのか。
この国の危機とは、何なのか……。
窓張り布=障子のようなもの。紙ではなく布を用いていることを表した造語




