表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/56

第三節「駆ける朝」

まずい!

まずい!

まずい!


最適ではない、取り急ぎに引っ立てられた言葉が、彼女の中で繰り返されている。


出くわす全て、神徒(しんと)すら()け切るのも(わずら)わしいように、宮の廊下を風を切って歩く女が一人。


神下イメナータ。

彼女はプラムバム神官の部屋に向かっていた。



――――先刻起きた短い出来事の一切が、彼女をこのように(はや)らせている。



「イメナータ」


今朝。

黒銅(こくどう)の民の朝支度のため、朝食の盆を運び出すイメナータを引き止めたのは、耳慣れた声だった。


「神官様……」


振り返れば、見張りを一人引き連れたプラムバム神官が、

イメナータに向かって真っ直ぐに歩いてくる。


近付く彼の表情を見てイメナータは肩に力が入る。

彼は微笑みを無くすと濃い色の瞳の三白眼が迫力を持つ。

薄い唇から(ささや)かれた低声(こごえ)が、イメナータの耳にだけ届いた。


「私の部屋に来なさい。……話を聞く」


イメナータは胸に冷たい血が降りるのを感じた。


()()()()()

どこから、何故か、どのようにかはわからないが、

昨夜自分が()()()()ことが、ばれている。


呆然とする彼女が持っていた朝食の盆は、見張りの男に(すく)い取られた。

盆の確保を確認したプラムバム神官は、

天宮(てんきゅう)の方に体を向け、見張りとともに歩み去っていった。


黒銅の民の世話(まかせたしごと)はお終いなのだ、と背中が告げていた。



――――そうして、今、彼女はプラムバム神官の部屋に行き着いた。



イメナータとて早く着きたかったわけではない。

身の内を、言葉にしきれない感情の球が跳ね回っているようになって、

いてもたってもいられない気持ちになって、それが早足に発散されただけだ。


誰にも目撃されていないことを確認し、部屋に入る。

主人不在の部屋は静かすぎて、身を(さいな)焦燥(しょうそう)が暴れて止まない。

壁中を掻きむしりたい。


何故ばれた?


私と黒銅(こくどう)の民以外知りようがないのだから、

あの黒銅(こくどう)の民はプラムバム神官に会ったのだ。

どこまで話したのだろう。

あることないこと言ったのではないか。

あんな、意味がわからなくて眺めるしかできないような無様な醜態(しゅうたい)、隠したに違いない。

どんな、私が悪い、と言うでっちあげをこしらえたのか……


いや……そのこと自体は、どうだっていい。

もとより下限の評判だ。

気狂い女。嘘つき。生意気。クズレ(まが)い。


家族を失い、仕事も取り上げられ、生きる術を無くしかけたとき、

彼の手に救い上げられたのだ。

プラムバム神官に見捨てられたら名実ともに生きてはいけない。


いや……そんなことだって、どうでもいい。


プラムバム神官は私に生きる意味を与えてくれた。

その恩に全身全霊報いたかった。


その道が、断たれてしまうのではないか……。


イメナータは壁に額をコン、コン、とぶつけながら思い悩み続けた。


そして、扉が開かれた。

前回の話と時間が三つ混ざるので読み辛くないといいのですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ