第一節「発熱」
全身が重りを付けたような怠さに支配されている。
熱い血流が左耳から鼻にかかる大きな傷跡にぶつかり滞って、じくじくと脈打つ。
左の口角が歪む。
熱が出た。
無理もない。
原因が明らかな分、かえって心は落ち着くものだ。
昨日一日の全ての行いがこの熱に対する布石だった。
窓から透ける日が、朝を知らせている。
怠いが、幸いなことに動けないほどではない。
下着を汗ばんだ体から剥がし、床に落ちていた寝巻きに着替える。
水場で体を拭った方がいいのだろうが、拭くものがあるか確証がない。
湿った毛布を抜いて、とりあえず重ねた布団の一番上へ。
そうして乾いたものに包まれるだけで不快感はだいぶましになった。
寝そべったまま首を捻って光を避けると、
昨夜椅子で塞いだ扉が目に入る。
これから誰が来るのだろう、と思う。
深く息をつけば、意識がぼやけていく。
そのまま怠さに身を任せてしまいたかったが、
扉が叩かれる音がした。
鍵を開けなくてはならない。
鍵?
昨夜は、掛け金式の簡略なものだが、内鍵をかけた……
――鍵はないのだな
――なぜ必要でしょうか
今更だが、鍵があるじゃないか。
黒銅の民の居室は例外なのか。
……いや、その後の別の問答のことも考えれば……
――…恐れ入りますが、それはなんでしょうか
イメナータは、売買について尋ねた時はそう答えた。
だから、鍵というものが存在することは知っていたのだ。
身分によって鍵の所持が認められているか決まっていると言う意味だったのだろう。
扉の向こうでは男の声がしている。
怠くてたまらないがこのまま閉じこもるわけにもいかない。
腹も減った。
コッパーは重たい体を持ち上げて、扉の前から椅子を跳ね除け、内鍵を開けた。
新章&50話です。祝い。
序盤の方を見返したら「ここで区切りたい~」みたいなものも出てきたので、しれっと増えてたらすみません。




