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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第六章
342/346

【番外編】胡蝶と風雪

こちらのお話と繋がりのあるお話です↓↓↓

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 紅玉が目覚めたという知らせは神域中を駆け巡り、四十の御社にも勿論届いた。

 ついに見つかった前二十七の神子藤紫のことも……。


 そして、藤紫の葬送式が終わった直後、四十の神子こと胡蝶は紅玉と水晶の元へ向かい、目の前で土下座をしたという話もあっという間に神域中に駆け巡った。


 胡蝶はかつてより藤紫を目の敵にし、〈能無し〉である紅玉を蔑み、その妹である水晶も毛嫌いしていたのだから、土下座での謝罪は当然の事だろうと誰もが思っていた。


 この男以外は…………。




「ねえねえ、四十の神子様ぁ~。弁明しなくていいの~?」

「……三十五の神子、いきなり御社に尋ねてきて、その質問は些か不躾かと」


 四十の御社を訪ねてきたのは三十五の神子こと風雪。

 そして、二人は今、応接室にて向かい合っていた。


「だって、君、今神域で印象最悪だよ? 『大和撫子さま』を虐め抜いた神子だって。自分の事棚に置いておいてさ~。言っているヤツらの方がよっぽど最悪なのにさ~」

「……実際、あたくしは紅玉も水晶も藤紫も罵倒しておりましたもの。その評価と当然の事かと」

「いやいやいや! 君さ、助けたよね? 紅玉ちゃんの事を! 皇族神子様の御社抜き打ち捜査で追い詰められた紅玉ちゃん達を三十五の御社からこっそり四十の御社で匿ってくれましたよね?」


 そう言って風雪が差し出したのは紙人形――『三十五の御社に紅玉と蘇芳がいるのは分かっています』――と伝言が書かれた。

 ちなみにその伝言には続きがある。


『こちらで二人を匿います。即刻準備なさい』


 桜姫達が突入の直前、転移術で現れた胡蝶に風雪は驚きを隠せなかったが、彼女の機転がなければ、紅玉達は桜姫に捕まり、最悪な展開へと進んでいたかもしれない……。


「実は、ここに来る前に十の御社に寄って来たんだよね。で、水晶ちゃんに話を聞いてきたんだ」

「…………」

「君がわざと水晶ちゃんを虐めて反撃される様子を周囲に見せて、自分を見せしめにしていたんでしょ? でも、その過程でどうしても水晶ちゃんや紅玉ちゃんに酷い事を言ってしまうから、その事について心から謝罪されたって聞いたよ」

「…………」


 胡蝶は何も言わない。

 ただ、目の前の茶を飲むばかりだ。


「君が痛い目に遭っていたおかげで、必要以上に水晶ちゃんに絡む者もいなかったし、紅玉ちゃんも邪魔者排除にあまり苦労しなかったみたいだしね。君の貢献度は高いよ」

「……何のことやら。あたくしはただ侮辱をしていた最低な女ですわ」


 どうやら胡蝶は梃子でも自分のした事を認めないようだ。


「……じゃあ、これならどう? 人事課の幽吾って人から面白い話を聞いたんだよね」


 その名が出た瞬間、胡蝶の眉がピクリと動いた。

 風雪はにんまりと笑う。


「十七年前、日護で起きた豪雨災害……君はその災害を鎮める祈りに参加していた数少ない神子の一人だった。当時の神域は神子も職員も穢れ切っていて、そもそも祈りに参加した神子も少なかったそうだね。そんな中、新人神子の君は神力が枯渇するまで祈って、幼い少女の命を救ったそうじゃないか」

「…………」

「その少女は成長して、神域管理庁の……今は二十二の御社の神子補佐役として働いているって聞いたよ。そうそう、紅玉ちゃんと同期で仲良しの慧斗ちゃん」

「……何がおっしゃりたいの?」

「……君さ、慧斗ちゃんの為に紅玉ちゃんを助けたんでしょ? かつて自分が助けた幼い少女が仲良くしている子だからって。嫌われ役になってまで」

「…………」

「紅玉ちゃんを庇おうとした慧斗ちゃんも叱責したそうじゃないか。まあ、あの時は状況が悪すぎたから、慧斗ちゃんを叱り止めなかったら、きっと慧斗ちゃんには罰が下されていただろうしね」


 胡蝶は溜め息を吐くと、茶器を卓の上に置いた。

 そして、風雪を冷たく睨むと言った。


「違います。あたくしはただ〈能無し〉を庇おうとしていたあの愚かな職員を叱りつけただけ。あの当時、正しい事をしたまで。今ではそれが最低な行為だという事も理解しています。ですから、あたくしは反省をしなければならない身」

「……あくまで認めないつもり?」

「認めるも何も、あたくしが悪というだけ。それだけですわ」


 呆れるほど頑固だと、風雪は思う。

 仕方がないと思いながら、風雪は預かってきた手紙を胡蝶へ差し出した。


「……慧斗ちゃんからだよ」

「……っ……」

「読んであげなよ。子どもの時にも手紙を出したけど、もう一度読んで欲しいんだって」

「……………………」


 胡蝶は恐る恐る手紙を取った。

 封筒から折り畳まれている便箋を取り出し、ゆっくりと開いた。




『私がこの世で最も尊敬するのは、四十の神子様の胡蝶様です。ずっと守ってきてくれて、ありがとうございました――慧斗』




(……本当に……真っ直ぐな……良い子に……成長してくれましたね……っ……)


 自然と胡蝶の瞳から涙が零れ落ちていた。

 涙が止まらない。止められない。


「……ねえ、胡蝶さん……君の汚名を返上しようよ。俺、悔しいよ。君だけがさ、悪の代名詞になっていてさ」

「…………言わせておきなさい。有象無象の言葉など」

「でもさ…………」

「見縊らないで頂戴。誰が黙って指を銜えていると言ったのです」


 胡蝶は涙を拭うと、真っ直ぐと風雪を見据えた。


「あたくしはあたくしの力で汚名を雪いでみせますわ。あたくしを誰だと思っているのです? あたくしは四十の神子、胡蝶ですわ」


 胡蝶のその堂々とした姿に、薔薇色の瞳に、風雪は魅入られてしまった。

 風雪は立ち上がると、胡蝶の手を握っていた。


「好きです」

「……は?」

「今、マジ、惚れました」

「な、何を……?」

「君がかっこ良くて。そもそも今までの君の行動もかっこ良過ぎて、いやもう惚れる要素しかないって言うか」

「あ、頭がおかしくなったのでは!?」

「ああそうかもね。今や、君にメロメロだもん」

「大体、あなた、あたくしよりも十歳以上も年下でしょう!?」

「恋に年齢は関係ないよ。だからさ……」


 風雪は胡蝶の手を引き寄せると、その手の甲に口付けた。

 瞬間、胡蝶の顔が燃え上がる程真っ赤に染まった。


「憐れな男を救うと思って、俺と付き合って?」

「なっ、なっ、なっ……!」


 胡蝶は混乱した。

 混乱して、混乱して、頭が爆発しそうになり、思わず開いている手を振り下ろしていた。




 ぱっちーん!――風船が破裂したような音が四十の御社に響き渡ると同時に、胡蝶が応接室から飛び出してきた。


「三十五の神子がご乱心ですわ! とっとと追い出して頂戴!!」

「ああ! 胡蝶さん、待って! 返事は!?」

「出て行って頂戴!!」


 頬に紅葉柄を浮かべた風雪は、ドタドタと逃げ去っていく胡蝶の背中に向かって宣言する。


「俺、諦めないからね~~!!」




 その宣言通り、三十五の神子の風雪は毎日のように四十の神子の胡蝶へ愛の告白をしたり、四十の御社へ通ったり、花束を贈ったりなど、その他様々な方法で胡蝶に迫ったという。

 胡蝶はその度恥ずかしがって、真っ赤な顔で怒鳴っては逃げ出した。


 いつしか追う風雪と逃げる胡蝶が神域の名物となっていき、その内に胡蝶の汚名などすっかり雪がれてしまった。


 さて、胡蝶が逃げ勝つか、それとも風雪が粘り勝つかは……それはまた近い将来に判明するであろう。




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