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ピープルインバスケット  作者: 扉野ギロ
ぐりむとれ
26/106

ぐりむとれ 13

 気持ち良さそうに眠るグリムとイルルを置いて、ラナイとルールーウィップが宿を出たのはその日二度目の竜の鼻歌が響いてからだった。

 二人が目指すのは街の中でも特に一目瞭然な場所、【オルディグ】の塔だ。


【オルディグ】は【コルト】の街の中心に位置する街一番の高さを誇る塔で、幾本もの鉄筒が束ねられて出来たその形状から、もしくは"煙突の父"または"焚き火様"とも呼ばれる。

 その名の通り、塔の中には種火"コルトの火"が祀られており、街の鍛冶屋は毎朝必ずそこから火を得て仕事をすることが儀礼だ。


 コルトの火には、種火守と呼ばれる守人が二十名ついていて、種火に近付けるのも彼らだけであり、不用意に盗むことや悪戯に消そうとしたりなどということは基本的にできないようになっている。

 

 そんな種火守は、前任の種火守からその仕事を託されるのが決まりで、今までにその仕事を断った者はいないとされていて。

 そのため、二十名いる種火守には記録の限りで最長六十代続く種火守もいるが、そこが種火守の始まりというわけでもなく、始まりの一人についてはそれが誰だったのか記録に残されていない。

 

 そうして彼らに守られながら、"消えない"と噂されるほど長い間種火は【オルディグ】の中で燃え続けているのだ。

 

「っていっても、私は生まれた時から目が視えませんから、そもそも煙突っていうものの形も……いえ、形そのものが私の体感でしかないんですよね。丸いものはツルッとしているとか、四角いものは角があるとか。だから、表面がザラザラだとなんとなく混乱しちゃいます」


 内輪の道、その対岸から【オルディグ】の入り口を見つめてルールーウィップが言った。

 ラナイは、返事をしない。

 

「……その、一応訊くんですけど。聞いてます?」


 そんなルールーウィップの質問に、ラナイは彼女の肩を一回叩いた。

 よかった、とルールーウィップが呟き二人は道を渡る。

 すると。


「ねえ、ラナイさん」


 と、再びルール―ウィップがラナイの方を向く。


「元々は口が利けたんですよね。どうして話せなくなったんですか?」


 言われて、(そういえば……)と首を傾げるラナイ。

 

【アーハイム】のあの道で姿を見かけて以降どこにも見えなくなったアレを、初めはどこへ行ったのかと考えていただけだった。

 しかし、初めて来たはずの街でアレが行くだろう場所の予想などつくはずもなく、持ち得る情報としてアレと出会ってから別れるまでの記憶を読み返していた。


 まともな一冊ともいえないその本を反復して読む間、ラナイはどれだけ時間が経ったのかわかっていなかった。

 気がつくと棚に本が一冊増えていて、そこに綴られていく物語が誰のものなのか知ったのは、文字の背景に彼女の瞳があったからだ。

 それが何を言わんとするのか、訴えかけられているような気がして、それからやっとラナイは記憶の部屋から出たのだった。

 

 すると、そこでグリムが自分を見つめていた。

 記憶の本で見るのとは違う、悲しそうな何かを堪えて塗りつぶしたような彼女の薄緑色の瞳を見て、ラナイは彼女のローブに刺繍された"黒い涙目"の意味を理解できた気がした。


 だが、掛けようと思った声はその時点ですでに上手く出せなくなっていた。

 掠れて隙間風のような微かな息しか漏れず、思った言葉の一部だけが呻きのように。

 それからずっとラナイの喉には異物感が残ったままだ。


 ふと、喉を撫でるラナイの指先には分厚くなった原石の皮膚と皮膚とがぶつかり合い、何の感触も得られない。


「わ……い……」

「そうですか……」


 そう言ってルールーウィップは顔を正面に戻し、「早く良くなるといいですね」とラナイに腕を絡めて、先導するように【オルディグ】の入り口に一つへと入って行く。

 

          ◯


【オルディグ】の中は、外とはまた違うやかましさで満ちている。

 その正体は人の作り出したものではなく、壁となる幾本もの鉄筒の隙間から流れ込んで鳴る、歌になりきれなかった鼻歌の一部によるものだ。

 時に鉄筒を震わせて虫の羽音のように鳴らし、しかし大概は風が壁に体当りして唸る、ウワンウワン、という音ばかりで、そこは宛ら巨大な胃袋の中にでもいるかのようである。


 しかし、それは耳を使うだけなら、だ。

 目が利いて、室内一帯に巡らされた鉄格子の様子を一目することができるならば、胃袋などということは一切想像できず、そこは突如厳重な監獄へと姿を変える。


 入って十歩も進めば現れるその鉄格子の壁に気付かず、ルールーウィップがぶつかりそうになるところをラナイは腕を引っ張って止めた。

 突然の出来事に戸惑うルールーウィップ。


 何か、と口にするよりも早くラナイは鉄格子を鳴らしてみせた。


「金属?」


 言いながらそこに手を触れ、ルールーウィップはここの状況を理解した。


「どのくらいですか? 端から端まで?」


 ラナイは一回、鉄格子を鳴らした。

 すると、「よう」と格子の向こうから二人に声を掛けてきたのは、およそ巨大といっていい巨躯にして、頭の脇に翼のような大きな耳と顔の真ん中から腰までにおよぶ長い鼻をぶら下げ、かつ剛毛の鬣が髭なのか髪なのかも区別がつかないほどびっしりと頭部全体を覆う、全身鎧姿の男だ。

 しかし、身長はラナイには及ばない。


「おめえさんら、【オルディグ】は初めてだな。ほんで、あんたは目が視えねえのか」


 と、鼻声の何かの混血種は、ルールーウィップを見つめた。


「もしかして、あなたは種火守の方ですか?」


 ルールーウィップが言うと、「ああ、そうだ。ポルポってんだ」と種火守"ポルポ"が鉄格子の向こうで頷いた。

 そして、「ほんなら、ちょいと説明させてくれ」と話を続ける。 


「まず、そこから十層分、中心に向かってこいつと同じ鉄格子が道を作ってる。まあ、街の形と似たようなもんだな。そんで、よっく見てもらえばわかるが、そこら中に同じく鉄格子で作られた行き止まりが幾つもあるのさ。つまりは迷路ってこった。


 上から見りゃ一目瞭然ってとこだろうが、ここにゃ上から見下ろせる場所はねえ。

 だから普通に行くしかねえんだが、この格子のせいで目ん玉がわけわかんなくなっちまってな?

 そういう造りと、どっかの阿呆のおかげでも一つ仕掛けを足したもんで、ワシら種火守以外が彷徨くと必ず迷うように出来てんのさ。目が視えようと視えまいとな……。

 だから、もしコルトの火にあたりてえってんなら、そばまで連れてってやるぞ?」 

 

 どうする、とポルポは二人共に視線を向けた。


「いえ、私たち種火守さんにちょっと聞きたいことがあって来ただけなので」

「ほう。なんだ?」

「とある人を探しているんですが、その人が種火守のイーリークラップさんと友人だったと聞きまして」


 イーリークラップさんはいらっしゃいますか。

 妙にかしこまってそう続けたルールーウィップの隣で、彼女の意外な質問の仕方に驚いたラナイの目が僅かに見開いていた。

 すると、ポルポは細いため息と共にゆっくりと首を横に振る。


「残念だが、イーリークラップはもう種火守じゃねえのさ」

「……へえ、そうなんですか」

「ああ。ある日突然ぱったりと来なくなっちまって、それからもう五年になる。だから悪いが、その友人ってもんについて知ることは出来ねえよ」

「なるほど、そういうことでしたか。ありがとうございます」


 と、ルールーウィップは深々と頭を下げ、そしてそのまま二人は【オルディグ】を出た。

 建物を出るとすぐ、(あんまり意味なかったな……)とラナイは頭をポリポリと掻く。が。

 その隣でルールーウィップは「なるほど」と呟いた。


「イーリークラップさんは、"友達"のことを限られた人にしか話していないのかもしれませんね。種火守の方全員に聞いたわけではないから断定はできませんが、おそらく……」


 言うだけ言って、ルールーウィップは「さあ、次はアイロさんの店へ行きましょう」と、密かに感心するラナイを置いてさっさと内輪の道を渡って行った。

   

          ◯


 アイロの店は、内輪に沿って歩いているとすぐ見つかった。

 彼らはそれが内輪側六区にあることを知っていたから当然だ。

 だが、見つけ方というとそれは看板を眺めていたからではなく、立ち並ぶ幾つもある建物の一つの前でルールーウィップがはたと足を止めたからだった。


 軒先に楽器や剣、兜やら防具の部位がぶら下げられている最早馴染みの光景の中で、ルールーウィップ曰くその店は「いい音」を鳴らしていたのだ。

 その鉄床を叩く音は、ただの穴でしかないラナイの耳にはどこで鳴るのも変わらないように感じられていたが、ルールーウィップの常人よりも敏感な耳では「ここの音は特に澄んで聞こえる」。


 それが気になってラナイがふと向けた視線に、"丸印の内にア"の書かれた金属板もぶら下がっていた。

 その様子からはまるで客引きをする気が窺えず、覗き込んだ店内には商品らしきものあるものの、それらは陳列という状態にはない。


 まるで廃棄場のような通路一本を残すだけの乱雑な店の奥には、通常の人間よりも少し小さく、小人よりも大きな分厚い背中が見える。


 身動ぎする度に浮き上がろうと僅かに前後するその分厚さの正体は、綺麗に畳まれた二枚の翼だ。

 捲くられた袖から露出するそこには同じ方向に生えそろう何枚もの羽があり、同じく一定方向に逆立つ長い髪か鶏冠か。

 一見すると妖鳥人にも見えるその人の耳は顔の脇にあり、そこには華奢なデザインのピアスがはめられていることから、その人がただの妖鳥人ではなく猿も混じっていて、さらには女性であることが窺えた。


 混血種らしい女の背中越しに振り上げられて微かに見えるハンマー。

 それが下ろされると、その勢いからは想像もできないほど長い残響がどこかで新たな波を作りながら二人の耳を震わせた。


 改めて耳にして、ラナイは(どこも同じだ)という発想を変えなければいけなくなった。

 図らずもその音に不思議な風景を見せられたからだ。

 

 それは、洞窟だろうか。

 宛ら無数の牙の生えた竜の口内が如く、ところかまわず並ぶ無数の結晶は、そこの中央で猫背の女が金槌を振るう度、生じた火花によって赤く煌めく。

 幻想的というよりも、少し寂しげな光景が散らかった店内と同時に脳内で錯覚されていた。


 そんなものを見せられながら、二人は少し腰をかがめながら店の奥へ進み、小さめな猫背に「アイロさん……」と遠慮がちにルールーウィップが声をかけた。


「…………」


 しかし、混血種の女は返事をしない。

 あの、とルールーウィップがまた息を漏らすように言ってみるが、やはり返事はなかった。

 だから、待つのが得意な二人はその作業を見守ることにした。

    

 それが十数分後。

 作業を続けていた女は、不意に「もう少ししたら一区切りつくからね」と独り言のようなことを言った。

 突然声を掛けられて、多少動揺しながらもルールーウィップは「はい」とだけ返事をして、すぐにラナイに向かって「気づいてたんですね」と耳打ちした。

 

 結局、一区切りついたのは一時間後だった。


 そうしてやっと向けられたその顔には、背中越しでは感じられなかった老いが刻まれている。

 女は二人を見るなり「えっ?」と声を漏らした。


「まさか、ずっとそこに立っていたのかい?」

 

 女の驚愕に察しが付かず、ルールーウィップは申し訳なさそうに「はい」と頷いた。


「あの。アイロさん、ですか?」

「ええそうよ。私はアイロ、この店の主人さ。それで、二人はお客さんだろ?」


 そう言って妖鳥人と猿の混血種"アイロ"は汚れた手をエプロンで拭った。


「いえ、私たちは聞きたいことがあって……」

「聞きたいこと? なんだい?」


 優しくそう言ったアイロに、ルールーウィップは「最近イーリークラップさんを見ませんでしたか?」と質問した。

 すると、それまで静かだったアイロは半ば興奮したように声を大きくし、


「あの子は、今ここに帰って来てるのかい!?」


 と二人に詰め寄った。


「た、たぶん……」

「なんだって!? なんだい、だったらウチにも顔を見せればいいのに!」


 嬉々として、アイロは満面の笑みを浮かべた。


「あ、あの。アイロさんは、イーリークラップさんと仲が良かったんですか?」

「仲が良かったもなにも、あの子にはこれからこの店を任せるつもりだったんだよ。それなのに、少し前から来なくなったもんで、私はずっと待ってたのさ」


 そう言ってアイロは「そうかい、帰ってきたのかい」と薄っすら目に涙を浮かべて呟いた。


「それで、あの子は今どこに?」


 訊かれてルールーウィップは気まずそうに「それが……」と俯く。


「私たちも彼を探しているんです」

「……どういうことだい?」


 アイロにさらに詰め寄られ、ルールーウィップは少しだけ悩んだ末、正直に【アーハイム】での出来事を話した。

 すると。


「そんなバカなことがあるかいっ!」


 アイロは憤慨して声を荒げた。 


「あの子は優しい子だ! ポロトロスなんかに関わるはずがないし、ましてや窃盗団なんかに入るわけがないよ!」

「お、落ち着いてください……っ」

「あの子には、楽器職人になるって夢があったんだ! 熱心で、種火守の仕事もあるのにそれでもしょっちゅう、あの子はここへ来て私の仕事を見ていった……っ。だからさ、だから私はあの子にこの店と技を譲るって決めたんだ! それなのにっ!」


 一段と声を荒げ、そしてアイロは「さっさと帰ってくれ!」と二人を押し出した。


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。わかってます、私たちもイーリークラップさんが悪い人じゃないのはちゃんとっ!」

「うるさい! あんたらにあの子の何がわかるってんだい!」


 激高し最早話をすることも難しくなって二人が揉み合っていたその時。


「アイロさん、落ち着きな」


 入り口の方から声がした。

 そうしてゆっくりと店に入ってくるのは、ウィービークラップだ。

 ウサギの妖獣人のその姿を確認して、ふっとアイロの力が抜ける。


「あんた、知ってたのかい? 今の話……」

「ああ。俺も昨日この人たちに聞いたんだ」

「しっ、信じたのかい!? あの子が、ポロとロスを!?」

「いや、信じられないさ。でも、あいつが消えたのは事実だ。だけど……違う、イリクのせいじゃない。全部、あのクソヤロウの仕業に決まってる……っ」


 最後吐き捨てるように言って、ウィービークラップは「あいつの"友達"について知ってることをこの人たちに教えてやってくれ」と、床にそのまま腰を降ろしてパイプに火を付けた。


「友達、って……イーリーが言ってた子の話かい?」


 そうだ、とだけ言ってウィービークラップは頷いた。


「……わかったよ」


 俯き加減に言うと、アイロは疲れたような深い溜め息を漏らした。


「イーリーが"友達"のことを言ってたのは、あの子がいなくなるよりも一年くらい前だった。

 どこで出会ったのかは知らないけど、どうやら"友達"はあの子の作った武器を褒めてくれたみたいだね。

 イーリーはそもそも引っ込み思案で大人しくて、そういうところが同じだったから"友達"になったんだ、って言ってたよ。


 あの子は友達みたいのが少なかったから寂しかったんだろう。

 それからは、ウチに来てもそこそこに"友達"とよく会うようになったみたいさ。

 そうして二人が会うようになって、それから少しずつ、イーリーがここへ来る頻度が減っていったんだ……ほとんど毎日来てたのにさ。


 それがある日から、あの子は妙に疲れたような顔するようになったんだ。

 そりゃあ、種火守は大変な仕事さ。

 強くなるために修行もしなくちゃいけない、それに種火の扱いだって習わなきゃだ。

 

 わかっていたさ、私だって。

 種火守と鍛冶屋の仕事を一緒に続けるなんて無理だ。

 だけど……それなのに、私はあの子にここを任せたいなんて言ってしまった……。


 次の後継者もゆっくり探せばいいさなんて、わかったような口を聞いて。

 バカだったって思ってる。

 もっとしっかり考えさせてから言うべきだったよ。


 突然大変な仕事を二つも押し付けられて、だからあの子は逃げ出すしかなかったんだと思う。

 私が店を任せたいと言ったその次の日さ、ウィービーがここへ来てイーリーがどこかへ行ったって教えてくれたんだ……」


 一頻り話をして、アイロはこぼれた涙を拭った。

 落ち込んでしょぼくれた姿は、昨晩二人に向けたウィービークラップの後ろ姿を彷彿とさせ、ラナイはその姿に細く鼻息を漏らしたが、ルールーウィップは静かにそっと頷いただけだ。


「ひとつ、質問をいいですか?」

「……なんだい?」

「イーリークラップさんが、種火守選ばれたのはいつ頃でしょう?」

「いなくなる一年前さ」


 そう聞いて、ルールーウィップが僅かに息を呑む。

 その様子に気付いたウィービークラップは、「どうかしたのか?」と。

 するとルールーウィップは、「わかったかもしれません」とラナイの方へ顔を向けた。


「お二人の話もそうですが、このたった二日間で私たちが聞いたイーリークラップさんの意見は共通していました。それでずっと引っ掛かっていたことがあるんです。

 

 まず、ラナイさんの知っているイーリークラップさんとあまりにも違いすぎるということ。

 一体イーリークラップさんに何があったのでしょうか。

 恐らくその答えは、ウィービークラップさんがいう"クソヤロウ"で、イーリークラップさんの言う"友達"です。


 そしてその人は、誰に聞いても優しい人だと言われるイーリークラップさんをやんちゃ者に変えてしまうような人物です。

 どんな人だったのか……きっと悪い人だったはずです。


 悪人は、善人を食い物にするっていうのは通説ですから、特に優しい人だったイーリークラップさんが目を付けられたとしてもおかしくありません。けど。

 ただいい人だったというだけなら、悪人だって無闇に関わるはずがない。それが引っ掛かっていた二つ目です。

 その"友達"は、どうしてイーリークラップさんに目を付けたのでしょうか……?」


 そこまで話すと、ウィービークラップとラナイの目付きが変わった。


「まさか……」


 何かを孕んだ絶望じみた声を漏らしたのはウィービークラップだ。

 声に反応し、ルールーウィップが深く頷く。


「はい……。たぶん、"友達"はイーリークラップさんが種火守だったから、近付いたんでしょう。

 つまり、その人が欲したのは種火守しかできないこと、です」

「コルトの火、か……」


 少しずつ感情が浮き彫りになるウィービークラップの声に、「おそらく……」とルールーウィップがまた頷く。


「理由はわかりませんが、イーリークラップさんに近付いたその悪人は、コルトの火が欲しかったんでしょう。さっき聞いて知りましたが、コルトの火には種火守以外簡単に近付くことはできない……そうですよね?」

「ああ、そうだ。あれはこの街の神聖なものだからな……。だが、わからねえ。コルトの火じゃなくたって火はいくらでも起こせるはずなのに、どうしてクソヤロウはコルトの火を?」


 ウィービークラップの質問に、ルールーウィップは何か考えて表情を歪ませた。

 そして。


「あるいは、コルトの火に隠されていることが……?」

「どういうことだ」

「例えば、コルトの火に特別な何かが隠されているのだとしたらどうでしょう。何かでその真実を知ったクソヤロウさんがそれを欲する理由になります」

「コルトの火の……秘密……?」


 ウィービークラップがそう口にして、その場には沈黙が訪れた――。

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