あれとれ 13
それから三日間の記憶がない。
と、ラナイがそれに気付いたのはつい今しがたのことだ。
きっかけは、「ここはどこだ?」というラナイ自身の質問。
気が付くと、狭く埃っぽく辺りに石屑が散らかったままの雑然とした本棚だらけの部屋にいて、大きな椅子に腰掛けていた。とそれがラナイの現状だったのだ。
すぐそばにはグリムがいて。
グリムは部屋の床と変わらず本やら何かで満たされたガラスの瓶やらで散らかった机に向いて、そこに広げた様々な輝きの石を眺めていた。
するとグリムが言った「何言ってんの」から、
「まさか、記憶が無いの?」
という台詞によって、ラナイは自分に何か忘れたものがあるということに気付いたのだった。
初めはポロトロスからの脱出当日だと思っていたラナイだが、続けた会話の中で失われた記憶の期間が"三日"だと知った。
「お前、ずっと普通にしてたわよ……っても、言うこと聞いてただけだけど」
言ってグリムは、「副作用みたいなもんかな……」と頭を捻る。
「副作用って、何かしたのか?」
「何かって……したわよ、そりゃ。お前が勝手に動こうとするから、ちょっとね」
一度言ってさらに「ほんのちょっとよ?」と付け加えたグリムは、僅かにはにかんだ。
「ちょっとだけ、こう……紐をつけたの」
「紐?」
と自分の体を見つめるラナイ。
その目にはグリムの言うような"紐"は見当たらず、「そんなのどこにもないぞ」と言うと、
「見えるわけないでしょ。それに、外したわよさっき。ずっと話さないから変だと思って」
「さっき、って。お前、三日間もずっとそうしてたんだろ? もっと早くにおかしいと思ってくれよ」
ラナイが不満を漏らすと、グリムは座ったままの白い人型を向いて一瞬目を見開き、それから眉間にシワを寄せ、そして顎に手を当てて天を仰ぎ「うーん」と唸った。
「……まあ、お前の言う通りね。それは謝るけど。だったらお前もあんまり自由にしないでほしいわね」
「なんでだ?」
「だって、お前はもうアタシのものなのよ?」
「いつからそうなったんだよ」
ラナイがぼやくと、「サンゴーをポロトロスに置いてきた時からに決まってるでしょ」とグリムは当たり前のように言った。
そんなグリムに対して、「あ、そう」とため息混じりに返事をして、そしてラナイは立ち上がった。
「どこいくの?」
机に向かうグリムの背後を通り過ぎ、ラナイが扉のノブに手をかけるとグリムが言った。
「アレのところに戻るんだ」
「あれ、って何?」
そう言ってグリムは首を傾げ、「そういえば、ポロトロスの時にも言ってたわね」と続けた。
「アレだよ、アレ。イグナスに頼まれたんだ、それでおれが山から連れ出した。女で、小さい人間なんだけど尻尾がなくて、それで妖精じゃない」
と、ラナイが振り返ったその目に、椅子の隙間から垂れる黒い鞭のような尻尾が映る。
そして、「とにかく、アレがおれの連れだ。お前じゃない」。
そう言ってラナイは扉へと向き直った。
「ちょ、ちょっと待ちなさいっ」
グリムが言ったが、ラナイは立ち止まらなかった。
そのまま扉を開け、廊下へ出ると、一直線に玄関口の方へ向う。
それほど長くない廊下には三つのガラス窓が並んでいる。
その対象の位置にも三つの扉があり、一つはラナイが今出て来たグリムのアトリエで、他の二つは寝室と浴室だ。
廊下を抜けると、境目無しにリビング・ダイニング・キッチンの機能が詰まった、兼ロビーのような広い空間に繋がる。
キッチンにはカウンター、そこに二脚分の椅子があり。部屋の中心に円卓が一台とそれを挟んでそれも二つの一人掛けソファが置かれている。
部屋の隅にも本棚があるが、すかすかでほとんど本は収められていない。
どれもこれもがラナイが使うには小さく、
(どっちがドールだかわかったもんじゃないな……)
それなのに、天井が高く設計されている不思議な空間。
およそ一色、コーヒー色の木材が横張りに施工された壁面で、唯一縦方向に存在するのは、グリムのアトリエと同じ大小が一体になった扉だ。
それは、家具を含めて、室内を構成する古びた色合いの木材が創り出す質素な雰囲気に似合わず重厚なデザインをしている。
そこに二つあるノブの高い方をラナイは握り締めた。
捻れば鳴る。その音は密林の奥で微かに聞える鳥の声のようで、見知らぬ家屋はラナイにとってまさに密林を迷うのと変わらない心境を生み出していた。
だが、【イグナスの山】のそこで目覚めた時とは全く違う感覚。
入ったから出るのだと、それはどこか本意ではないという意志の現れか。
吹き込む外気の中に身を投じると、ラナイはやっとといった様子の細く鼻息を抜いた。
これまでの三日間、まるで記憶のないラナイにとって、今立っている場所がどこなのか検討もつかなかった。
とはいえ、そこからは街の全貌の大半が確認できる。
だから、どこが自分自身の持つ記憶の最終地点なのかは一目瞭然だ。
様々、適当に配置された雑然とした街の中でも、そこだけは完璧に廃墟と貸している。
通常の街の設計で言えばおよそ一ブロック分、まるまる破壊されて瓦礫の山となっているのだ。
その瓦礫の上には遠目にも少ないとはいえないほどの人数が群がっていて、その様子はまるで菓子に群がる蟻のそれそのもののように見える。
それを避けて歩く人々は宛らそこから掠め取った餌を運ぶ働き蟻であり、高い位置からそれを見下ろすラナイには、どの人間もそこにある廃墟と無関係には見えなかった。
ラナイは、アレが物見櫓から眺めたあの様々な建築物が積み重なって出来た山の中腹にいた。
そこは、通称【城】と呼ばれるものであり、しかし城ではない。
幾つもの家が不規則に積み重なって出来た街の中に存在するもう一つの街。
大きな特徴としては、そこに住む者の大概が小さい人間ばかりであることだ。
この【城】としての複雑な形状が、大きい人間には適さないということが大きな理由であるのは、その道らしくない道を歩くラナイにもなんとなく理解できた。
どれもこれもが古くボロボロなものばかりだが、その中でも特に道の一端と化した廃屋に関しては、生活感そのままにトンネルとかアーチという形に使われていたり。
正しく居抜きというべきか、そこで何やら商売を営んでいる者もいる。
元々は三角の傾斜がついていたのであろう屋根は、無理矢理平らに削られて、その上に都合勝手に床板が敷かれ、打ちたいだけ杭やら釘やらが乱暴に打ち込まれていたりして、建物すらも建物扱いされていない。
そんな混沌を形にしたような場所が、この【城】だった。
つまり、【城】の麓に広がる雑然としたものの方が、街の縮図だったのだ。
物見櫓から【城】を眺めたアレの感想は、そこにある【城】の中身を知らないからこそ得られた表層の感想に過ぎなかった。
それをラナイは知らないが、この不思議な街の中の街を下りながら、アレにここのことを教えようなんてことを考えていた――。
◯
【城】を下りきると、ラナイにはそれまで複雑だと思っていた街が簡素でつまらないもののように思えていた。
ラナイは、ポロトロス"跡"に辿り着くまでに迷わなかった。
どうしてあれだけ街歩きに苦労したのかとつい三日前の自分を馬鹿にしたくなるほど、【アーハイム】を歩くのは簡単だったのだ。
なぜか。
その答えは、ラナイが【アーハイム】の歩き方を知ったからだ。
複雑に見えて【アーハイム】が単純なのは、その街並みの不規則性故にほとんど曲がる必要がないということだった。
高いところから街の全景の大半の構図を手に入れたからこそ気付いたことだ。
同時に、この街で人を騙すのはあくまで初心者に向けられたイタズラだったということにもラナイは気付くことができた。
だから、ラナイは安堵した。
三日前にあれだけ馬鹿にされたのは、自分たちがおかしいからじゃなかった。
アレのせいなんかじゃなかった。
(それも、アレに教えてやろう)
グリムという知り合いもできたし、これでもうラナイには【アーハイム】という場所に不安を抱く必要は無くなっていた。
崩壊してクズと化したポロトロスを見上げて、ラナイはそこで作業する一人の"クマ耳"に声を掛ける。
「なあ、ここはどうなったんだ?」
「ああ?」
不精な雰囲気のクマ耳の大きい人間の男は、瓦礫の高いところからラナイを見下ろすと、さっそく小首を傾げた。
「お前、グリムんとこのゴーレム……だよな?」
男から怪訝な顔でされる質問に、ラナイの頭を過る『人前で喋るな』というグリムの言葉。
今さらそうしても無意味だというのに、ラナイは大袈裟に首を縦に振る。
「うん、ってじゃあ……話せたのか? ずっと?」
「ま、そういうことだ。一応秘密だけど」
「……そ、そうなのか。全然気付かなかったぜ。お前も苦労してたんだな」
「まあね、って。そんなことより、教えてくれよ。ここはどうなったんだ?」
クマ耳の男は答える、「終わりだよ」
「終わりってのは、闘技場がってことがか?」
「見りゃわかるだろ? っても、問題はそこじゃねえ。
一匹残して全部逃げちまったのさ。全部逃がされちまったんだ、野獣がよ」
とクマ耳の男が瓦礫の山の向こうをぼんやりと眺める。
「あの野郎……裏切り者のイーリークラップ……」
憎々しげ呟いたその名に、ラナイが食いつく。
「イーリーって、あの"うさ耳"か?」
「知ってるのか?」
「長いことやってるから、まあね」
とラナイが頷く。
「そいつだよ。ポロトロス子飼いの窃盗団"ガビッツ"の下っ端さ。後でアリアス・コムの奴らがガビッツのボスを問いただしたらしいが、少なくともガビッツは関係ないって話だ。
っていってもな、そんな甘い世界じゃねえ。下っ端の独断だからって許されるわけじゃねえさ……。結局、ガビッツのボスは殺されたみたいだぜ」
そう言って鼻で笑い、クマ耳の男はラナイの元まで瓦礫を滑り下りた。
男は体も頭も大きなガッシリとした体系だが、ラナイよりも頭一つ分だけ背が低い。
「だからよ、残されたガビッツの連中はドタマにキてる。イーリークラップを見つけたらぶっ殺すってな。けど、そんなもんはついでさ。
ポロトロスは、アリアス・コムの三人を送り出してんだからよ」
「あいつも災難だな。まあ、そういう道理もあるんだろうけど」
ラナイは頭をポリポリと掻き、
「じゃあ、ヴァーシュを逃したのは"イーリープラック"だったんだな……」
「プラックじゃねえよ、クラップだ。それと……」
――あいつは一人じゃなかったみたいだぜ
「仲間がいたってことか?」
口にして、ラナイはあまり良くない予感を感じた。
「連れがいたんだ。どうやったんだか知らねえけど、そいつはそいつでヴァーシュに"乗ってた"って話だぜ?
まったく、ありえねえよ。竜使いなんて、おとぎ話だろ?
それなのに、あの気難しいヴァーシュが人を乗せてしかも、"守ってた"ってんだ」
信じられねえ、とクマ耳の男は苦い顔をして頭を振った。
「アレ……」
呟いてすぐにその言葉をしまい、ラナイは「それで、どうなったんだ?」と続けた。
すると、クマ耳の男は無言のまま空を見上げ、そして視線を戻すと代わりに人差し指を空へ向ける。
「行っちまったよ」
「……空にか?」
「ああ。だからもう、あいつがどこに行ったのかわからねえんだ。一応追っかけて行ったのもいるみたいだが、どうせ一月もしたら手ぶらで帰ってくるだろうな」
そう言ってクマ耳の男は両手をブラブラさせておどける。
きっとそうだろう、とそれはラナイも同意見だった。
だから、男がそうしたのと同じように空を見上げて、もうそこにない飛竜ヴァーチカッター・シュルの姿を想像した。
もし、その背にアレが乗っていたのなら、どこへ向かったのだろうか。
ぼんやりとラナイが思い出そうとするのは、飛竜が住むところだが、それを思い出せたことでひとつ問題生じた。
問題とは、飛竜が住むところといえば"空"だ、ということだ。
水中の魚類が泳ぎ回りながら生きているのと同じく、竜でも翼を持つものは、大概空を泳いで生きている。
そんな飛竜が大地にやってくるのは、食事をするため、もしくは地竜や水竜との交尾のためであり、それだってかなり稀なことだ。
と、それがラナイにある常識だった。
つまり、アレがいつ大地に戻るかわからない。
おまけに、それが"どこなのか"ということも加えれば、流れ星がいつ大地に届くのかを考えるくらい無意味なことだ。
「参ったな……」
声を漏らし、ラナイは頭を掻く。
「まったくな……。アンノウンの数も減ってきてて、ヴァーシュは新しく始めるゲームの目玉になる予定だったんだ、それなのに……そのためにウチがいくら払ったと思ってる」
と、クマ耳の男は舌打ちをした。
「とにかく、ここはもう終わりだ。お前が負けたことであの日の稼ぎもほとんどがどこかのチビに持ってかれちまったしよ。もう【アーハイム】のポロトロスには出来ることがねえ」
「ま、そうみたいだな」
あっけらかんとそう言ったラナイに、クマ耳の男が人差し指を突きつける。
「お前だって、だろ。闘技場が無かったら、どうやって稼ぐつもりだ? つまらん錬金術師風情のグリムが賭博以外にまともな稼ぎ方なんかできるわけがねえ。だから、ポロトロスがなくなって困るのは、お前の主もなんだ。
ま、岩のお前自身には関係ないのかもしれないけどな……」
そして、ため息混じりに「俺も【ディーズベルグ】に行くかな」と漏らした。
その声の向こう、ラナイが男のクマ耳越しに何気なく眺めた雑踏を、風になびく長い黒髪が通り過ぎていく。
「あっ」
おい。
とラナイはクマ耳の男を押しのけて走り出した。
そして、大勢の人々が行き交う通りの真ん中に立ち、その目に長い黒髪を映そうと雑踏に目を凝らす。
しかし、そこにあるのは見知らぬ後頭部ばかり。
金髪、茶髪、灰色がかった青い髪、黒だが剛毛の髪……。
大概の人間には頭部に耳があり、何よりその大きさがアレのそれとは大きく異っていた。
(ここからじゃ、見えない……)
小さい人間のアレ。
彼女を探すため、ラナイは地面に伏せて通りを進んだ。
すると見えるのは、足だ。
様々な人間の無数の足、その中に身を投じてラナイにはある思いが浮かんだ。
言葉にすれば、アレはこんなところを歩いていたのか、ということだが。
あの長い丘を越える手前、背の高いラナイの視界すらも隠すほど高く伸びた草の茂る草原の、その中を進んだ時の前も後ろもわからなくなる感覚と光景が心境だった。
そんなところを歩いていた。
ラナイが草原を進む時にアレから目を離さなかったのは、小さいアレを見失わないためだった。
手を繋いでいて、それだけじゃ不安だった。
その原因不明の不安が、過去の経験によるものなのか、単にアレが小さくて頼りないから大袈裟に感じていただけなのか、それがずっと"わからなかった"。
わからなかった、のは。雑踏に目を凝らしてラナイにその原因が今わかったからだ。
その時、無数の足の間にまた長い黒髪が垣間見えた。
「アレ……っ」
呟いて這ったままラナイはそれが消えた曲がり角まで突き進む。
周囲のざわめきが風のように過ぎ、押し寄せて分け消えていく足たちは、思いの外自分が速く動いているのだとラナイを錯覚させた。
合わせて高鳴る鼓動は、曲がり角の先にアレがいるだろうという期待。だが。
「……あれ?」
アレの姿はない。
あるのは、今しがた通り過ぎてきた足の群れ。
と、そこを器用に縫って進む小さな人間たちを見付け、道の端に寄ってラナイは目を凝らした。
すると、そこにまた一瞬長い黒髪が掠める。
次にそれが消えたのは、"どこか"だ。
「ったく。あいつ……」
視線が低くなったことで周囲がよくわからないラナイは、おそらく、という曖昧な感覚で長い黒髪が消えた場所を目指した。
目指した、が。そこには道が無い。
ラナイの目に映るのは壁の隙間、ネズミ道だった。
なんとかその中を覗き込もうとネズミ道に頭を突っ込もうとするが、卵頭の時よりも厚みが増して、さらにゴツゴツとした状態の今では頭を差し込むことすらままならず。
募る焦燥に急かされて、ラナイは考えなしにネズミ道を隠す壁を引き剥がした。
バキバキ、と派手に音を立てて、その割あっさりと目隠しの壁は破れた。
そこへ無理矢理顔をねじ込んだラナイの背中に、周囲の呆れたような声が聞こえてくる。
「何やってんだ?」
「落とし物か?」
「乱暴な奴だ」
「あれって、【城】んとこ彷徨いてるゴーレムじゃないか?」
「グリムのゴーレムだ」
ネズミ道の向こうでまた黒髪が消えていくのを確認したラナイは、立ち上がり、背後で騒ぐ野次馬に向けて言う。
「おい、ここの向こうってどこに繋がってる?」
だが、視線を合わせた誰もが首を傾げ、「なんのことだ?」と話にならない。すると。
どこからか、「向こうだよ」と声がして、すぐに視線を落としたラナイの足下で三角耳の妖獣人がラナイの進んできた方を指差していた。
そして、今度は立ったままラナイは来た道を戻り、曲がり角で伏せると、すぐに壁際に視線を集中させた。すると。
タイミングよく壁の隙間から現れた、長い黒髪。
最早自分がどんな風に動いているのかも意識せずに、ラナイはその長い黒髪に向かって突進していた。
「おい、ちょっと待てっ」
声を掛け、指先で背中に触れると、それは「キャッ」と小さく声を上げた。
瞬間、長い黒髪の中から平べったい"ナン"のような耳が浮き上がる。
「な、何よいきなりっ! びっくりするじゃない!」
キーキーと喚くように振り返ったのは、男とも女ともつかない濃い化粧の妖獣人だ。
「……ま、間違えました」
「もうっ。困っちゃう」
言ってその男とも女とも付かない濃い化粧の妖獣人は去って行った。
とその時。
去っていく妖獣人とすれ違いに、雑踏に垣間見えたのは、それも長い黒髪だった。
その長い黒髪は、それだけじゃなく赤いネックレスと粘土色の衣服を身に着けている。
見た瞬間、アレだとわかった。
だからすぐにラナイは彼女を追いかけたが。
雑踏にちらちらと、映っては消えるその姿に上手く辿り着くことができず。
またしても例の曲がり角で少女を見失い、そして。
しゃがんでも立ち上がっても、二度とその姿を目に捉えることはできなかった――。
◯
それから、グリムが探しに来るまで、ラナイはアレを探し続けた。
その間に幾人もの長い黒髪を見つけたが、どれも他人で。
その後数日間、グリムの手伝いを得ても尚、見つからなかった。
アレは、ラナイの前から完全に姿を消したのだ。
赤いネックレスと粘土色の衣服、そして胸に隠された今は黒い宝石という危うい手がかりだけを残して。




