第一話 九節
稽古の後、舞妓たちがぽつぽつと散っていく中で、羽根駒だけがお師匠に呼び止められた。
華宮耶も一緒に叱られるものと思って、そろりと隣に座る。
「華宮耶、あんたはもうええ。問題は羽根駒、あんたや。」
羽根駒は小さく身を縮めた。
「あんたが稽古に身ぃ入ってへんのは珍しいな。」
お師匠の声は低かった。
「あんたのえらいところは、自分に厳しゅうできるところや。それはうちも太鼓判を押せる。けどな、弱いところもそれや。あんたは自分に厳しゅうしすぎる。人を見過ぎる。自分を後に回しすぎる。」
羽根駒は返す言葉もなく、畳に額がつきそうなほど俯いた。
「あんた、ずっとあそこを見とったな。」
お師匠の視線が、いつも雪乃が座っている辺りへ流れる。
「ええ加減にし。あんた、そんなこと考えてる場合とちゃうんえ。」
その言葉は、焼けた火箸のように羽根駒へ突き刺さる。
「……まさか……『この先』から逃げようとは思てへんやろな。あんたは……」
一転して、声は氷のように冷たかった。
羽根駒は三つ指をつき、深く頭を下げた。
「へぇ。思うてません。」
師の言葉を遮るなど、普段の羽根駒なら決してしないことだった。
ーーどうか、それ以上を言葉にするのは堪忍しておくれやす。
しばし沈黙が落ちた。
「ええ……うちも、そうは思うてへん。」
お師匠は小さく息を吐く。
「お説教は終いや。」
そう言ってお師匠が立ち去ってなお、羽根駒は暫く動けなかった。




