第一話 四節
羽根駒と華宮耶が角で押し合いへし合いしていると、雪乃はすぐに出てきた。
雪乃は入った時と同じく両手を前に組み、歩調を乱さず歩いていた。
慌てて角の物陰に隠れる二人。
またしても中途半端な中腰である。
何より稽古着の文庫結びの結び目が角からはみ出ていた。
はたから見ると大層目立つが、雪乃に見つからない。
その一点だけは成功していた。
しばらくじっと息を潜めた後、そーっと角から顔を出す。
雪乃の姿は見えなかった。
華宮耶が慌てて後を追う。
こんな時でも決して走らないのは舞妓の性か。
かくして二人は雪乃を見失った。
華宮耶がとぼとぼと羽根駒の元へ戻ると、羽根駒は雪乃が出てきた家をじっと見ていた。
「ここ、お菓子屋さんやえ。」
暖簾はまだ出ていないが、確かに中から香ばしくも甘い香りが漂っていた。
「お使いや。屋形のお母さんが、どこぞへの手土産のお使いでも頼まはったんやろ。」
羽根駒が言うと、
「ほんまにそう思うてはります?」
華宮耶が問う。
「どういう意味や。」
羽根駒がわずかにたじろぎつつも問うと、
「雪乃さん姉さん…なんも持っておへんかった。」
「持っておへんかった?」
「もし、どこぞへの手土産を買うたなら、風呂敷の一つも持っとらんとおかしい。
もし、何か買うたとしたら、買うたんは手土産やない。
袂か懐に入る大きさのものや。
それと、お使いやったら屋形に戻らんのも不自然や。」
「そのままどこぞに届けに行かはったんやないの?」
「ほなら、なおさら、なんの包みも持っとらんのが不自然や。
何より、このお店はまだ暖簾も出とらん。
もしお使いやとしたら、こんな時間ちゅうこと自体が変なんや。」
羽根駒に話しているようで、半ば自分自身に確かめるように言葉を紡いだ。
「なるほどなぁ。ほな……変やなぁ。」
そう言った羽根駒の視線はお菓子屋の格子窓の隙間に注がれていた。




