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第一話 三十二節
その時であった。
東山の稜線から朝日が昇る。
青白かった世界に光が満ちた。
「……違う。」
雪乃が呟く。
「……うちがほんまに嫌なんは……夢が夢で終わることや。」
その声はまだ震えていた。
しかし俯くことだけはしなかった。
「うちは立派な芸妓になりたい。
あの子の分まで踊りたい。
たった一日でもええ。
旦那様のためでも、千乃のためでもなく。」
雪乃は自分の襟を握った。
「うちはうちのために踊りたい。」
雪乃はお母さんを振り返って言った。
「お母さん。襟替えの準備をお願いします。」
「雪乃さん姉さん……」
羽根駒が言う。
「羽根駒ちゃん。華宮耶ちゃん。番頭はん。
おおきに。
うち、ちゃんと思い出せたんどす。
もう『お遊び』は終いにしおす。
うちは立派な芸妓になるんや。
うちも……
うちもどうせ後悔するんやったら、うちが選んだことで後悔したい。」
そう言った雪乃の顔は、悲しくなるほど晴れやかだった。




