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第一話 三十一節
「違う……違うんどす。
うちもなんどす。
うちも、お母さんを利用しとったんどす。
綾緒のため。
千乃のため。
お母さんのため。
そう言うておれば、『ほんまは旦那様のものになんてなりたくない』いう気持ちに蓋ができたんどす。
みんなに避けられれば避けられるほど、うちの生きる術は他にない……
そう思えたんどす。
うちは、うちを守るために……」
雪乃は、今にも額が膝につきそうなほど項垂れ、呟いた。
薄暗い境内に沈黙が降りる。
先ほどまで僅かに聞こえていた葉ずれの音も今はすっかり止んでいた。
「ほな、やめよし。」
千乃のお母さんが言う。
「ほな、襟替えもせんでええ。
永田様のところへも行かんでええ。
逃げなはれ。」
その声は迷いなく、真っ直ぐで、そしてひたすらに優しかった。
「ええか。
あんたが一人でなんもかんも背負うんは今日限りで終いや。
なぁに。
たかが永田何某。
あんな油狸にうちの子は渡さへん。」
そう言って、お母さんは雪乃の手を引いて立ち上がらせた。
その背後へ回り、背中に手を添えた。
「あとはうちがなんとかするさかい。」




