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舞妓探偵  作者: 掛出すみれ
雪乃編
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29/33

第一話 二十九節

「その晩、雪乃は一人で屋形へ戻ってきた。」

千乃のお母さんの声が、再び夜の境内に響いた。

雪乃は羽根駒の袂を握ったまま、顔を伏せている。

「最初はずーっと黙っとった。

それからようやく、綾緒が駆け落ちしたことを、この子から聞かされたんや。」

千乃のお母さんは、雪乃の肩に置いた手に力を込めた。

「ほんで、この子がうちに言うたんや。」

——

「うちが綾緒を突き落としたことにしておくれやす。」

そう言った雪乃の視線は揺るぎなく千乃のお母さんを捉えていた。

両の拳は震え一つなく、膝の上に置かれていた。けれど、爪は掌に血が滲むほど深く食い込んでいた。

「旦那様に事の真相が伝われば、綾緒もあのお人も無事には済みまへん。

もちろん、千乃も、お母さんも、うちも……

でも、事が『舞妓同士のいざこざ』であれば、旦那様は御自分の名に傷がつかんよう、揉み消しはると思います。旦那様のお力なら、それくらい容易いことどす。」

そこまで言って、雪乃は一度息を吐いた。

「せやから。うちが綾緒を突き落とした。綾緒はそれで踊れんようになった。そういうことにしておくれやす。」

——

「うちには、それしか道が残されてへんように思えた。」

千乃のお母さんの声は、境内に満ちる葉ずれの音にも負けそうなほど細かった。

「うちは……千乃を守るために、綾緒を守りたいいう雪乃の気持ちを利用したんや。」


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