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舞妓探偵  作者: 掛出すみれ
雪乃編
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第一話 二十七節

千乃のお母さんを見るなり、雪乃は慌てて羽根駒に縋り付いた。

大和田がごく一瞬反応するが、手出しはしなかった。

「もう、終わりにしとくなはれ。」

雪乃の膝が折れ、着物の裾が玉砂利の上に乱れた。

「うちどす。あの子の背中を押したんは、うちどす。ぜんぶうちが悪い。それでええやないの……」

羽根駒の袂を握る指に力が籠もる。

「やから、もうこれ以上、あの夜のことを掘り返さんといて。お願いやから……」

千乃のお母さんが、雪乃の肩に手を置いた。

「綾緒は落ちてへん。」

雪乃が千乃のお母さんを振りあおぐ。

何かを言おうとしたが、お母さんは首を振ってそれを制した。

「綾緒は……駆け落ちしたんや。

ほんまに悪いんは、綾緒を止められんかったうちなんや。」

千乃のお母さんが言うと、

「違います。違うんどす。うちです。あの晩、うちが綾緒を送り出したんどす。うちが悪いんどす。」

雪乃が慌てて割り込んだ。


——

五年前の水曜日。

永田の定例座敷を終えた雪乃と綾緒は、いつものように八坂神社の石段を並んで上っていた。

雪乃の手には渋紙の袋。

中には辻占煎餅が二つ。

毎週水曜日、八坂神社に参った後に辻占煎餅を食べる。

これは二人にとって欠かせない習慣だった。

本殿の前で両手を合わせる。

雪乃は声に出して呟いた。

「これからもうちと綾緒、ずっと一緒に気張って、立派な芸妓になれますように。」

綾緒にはとうに知られていた。

毎週、一言一句変わらず繰り返してきた願い事である。

しかし、その日の綾緒は願った内容を口にしなかった。

「綾緒?なんや今日はえらい真剣やなぁ。」

雪乃が言う。

綾緒は合わせた手を下ろさぬまま言った。

「雪乃。堪忍な。うちは芸妓にはならへん。」

雪乃は一瞬、言葉の意味がわからなかった。

「ん?なんのことや?」

綾緒はようやく合わせた手を下ろし、雪乃へ向き直った。

「私は今晩、花街を出る。」


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