第一話 二十四節
手紙の上に覆い被さらんばかりに身を寄せ、食い入るように見つめる華宮耶に、大和田が問う。
「ん?華宮耶、どうしたんや?」
華宮耶はぼんやり大和田を見上げ、はっと気づいたように書付の束ににじり寄る。
そのうちの一枚を手にして戻ると、雪乃の手紙の横に置いた。
「なんやなんや。」
藤歌が華宮耶の隣へ身を寄せ、手紙と書付を覗き込む。
その対面から大和田も覗き込んだ。
羽根駒だけは少し離れてそんな三人を眺めるに留まっていた。
「やっぱり……この『き』を見てくれはれ。下の横棒だけ長う伸びて、最後がきゅっと曲がっとるやろ。どっちもそうなっとる。」
華宮耶が二つの「き」の字を交互に指差しながら言うと、
「ほんまやな。これも雪乃さん姉さんが書かはったんやね。」
藤歌が書付を指差して言う。
「でも……妙やおへんか?二人は綾雪って知ってはる?」
華宮耶が大和田と藤歌に問うと、
「しっとるしっとる。祇園はうちの庭やさかいな。なんもかんもバッチリ知っとる。」
藤歌が答え、大和田は無言で頷いた。
「ほな、綾緒さんが引かはった理由も知ってはるな。これはな、綾緒さんの引き祝いん時の書付や。」
華宮耶が言う。
「なんも妙やない気がしおすけどなぁ。うちも引かはる姉さん方の書付を手伝ったことは、何回もおすし。」
首を傾げる藤歌。
「『雪乃が綾緒を石段から突き落とした。その怪我のせいで綾緒は踊れなくなった。』いう話のことやな。」
大和田が低い声で言う。
「せや。噂では、雪乃さん姉さんは綾緒さんの踊りに嫉妬して石段から突き落としたことになっとる。引き祝いの書付を誰かが代筆すること自体は、別段変なことやおへん。でも、噂通りの経緯やとしたら、綾緒さんの書付を雪乃さん姉さんが代筆するやろか?」
華宮耶が言う。
大和田と藤歌は二人とも腕を組んで考える。
「んー。いまいちピンと来るような来おへんような……」
首を傾げる藤歌。
「そうや。まだ何かが決定的に足らん……」
何が足りないのか、華宮耶にもまだ見えていなかった。
ただ、違和感だけは拭えなかった。




