第一話 二十三節
「駒ちゃーん。こっちやえ〜。」
藤歌が大声で呼ぶ。
「よろしゅうおたのもうします。」
羽根駒はまず、敷居を跨ぐ前に三つ指をついた。
「羽根駒は相変わらず堅苦しいなぁ。少しはこいつらを見習う……たらあかんか。」
大和田がからからと笑う。
「こいつら」と言われた先を見ると、藤歌が足を崩して座っている。
そして、その横で小さく膝を揃えて座る華宮耶がいた。
華宮耶はわざとらしくそっぽを向いて黙っている。
「さ、さ、はよはよ。」
藤歌が華宮耶の手に手紙を押し付けつつ急かす。
華宮耶は手紙の封を切りながら、
「あんた……なんであんたまで見る気なんや。」
と藤歌を睨みつけた。
「雪乃さん姉さんはうちが見たらあかんとは言うておへん。」
藤歌は平然と言い放つ。
はぁ、と溜息を吐きつつ華宮耶が広げた文にはこうあった。
——羽根駒様 華宮耶様
次の水曜日の夜
お座敷の引けましたのち
八坂の社でお待ちしております
夜道は物騒にございますゆえ
お手をお引きくださるお方がおありなら
どなた様と御一緒でも
一向に差し支えございません
雪乃
「お、うちも呼ばれてええんかいな。なんやろ。おもろいことかなぁ。」
藤歌だけが騒がしかった。
華宮耶が文から顔を上げると、羽根駒もこちらを見ていた。
けれど、どちらも口を開かなかった。
「次の水曜日ゆうたら、羽根駒も華宮耶もうちの座敷やな。」
大和田が、帳面をぱらぱらと捲りながら言う。
「うちは?」
藤歌が言うと、
「藤歌の名はない。」
大和田が答える。
「あ、せや。うち、風見庵やった。」
風見庵といえば、「朝までどんちゃん騒ぎ」で有名な茶屋である。
「そっちの方が楽しそうやな。」
藤歌はくるりと態度を翻した。
「ほな、松一のお母さんには、わいから話しとく。水曜日は座敷が引けたら、そのまま八坂さんへ寄ればええんやな。」
羽根駒と華宮耶は、互いを見ないまま小さく頷いた。
大和田と藤歌の話が済んでも、華宮耶は手紙を畳まなかった。
「お引きくださる」の「き」が、妙に目に残っていた。
少し離れたところには、綾緒の書付を載せた五年前の束があった。




