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舞妓探偵  作者: 掛出すみれ
雪乃編
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22/33

第一話 二十二節

その日の午後、華宮耶は一人で松村亭を訪れた。

茶屋を一軒一軒回り、顔と名前を覚えてもらう「お頼み回り」のためである。

しかし華宮耶は挨拶を済ませた後も、もう半刻ほど不貞腐れた顔で帳場奥に座り込んでいる。

「あんた、なにをしにきたんや……」

大和田が呆れた顔で三杯目のお茶を差し出すと、

「別に……番頭はんには関係おへん。ここが最後やさかい、ちょっと長居させてもろうとるだけや。なんや、邪魔してしもうたかなぁ。」

不必要なまでに噛み付く。

「まぁ、ええけど……」

大和田は特に気にせず自分の作業を再開する。

「なにしてはるん……」

かと言って放っておかれるのは面白くない華宮耶が問うと、

「ああ、古いもんをな、整理しとるんや。

蔵がもう一杯やさかいな。」

そう言って、次の葛籠を開ける。

「この辺は……引き祝いの挨拶状ばっかりやなぁ。もう用済みやと思うがなぁ。んー。まぁ、置いとこか……暇やったらこれ、年ごとに分けてくれはれ。」

そう言って埃だらけの紙束を差し出す。

「なんでうちが……」

と言いつつも、紙束の中から一枚ずつ検める。

年ごとに仕分けているうちに、日付順に並べたくなる。

日付順に並べていると、差出人の名前順にも並べたくなる。

そうして五年前の束に差しかかると、華宮耶の手つきが少しだけ遅くなった。

ふとそのうちの一枚で手が止まる。

差出人の名前は綾緒。

日付は五年前。

内容は当たり障りのない定型文である。

——まぁ、松村亭にはあるやろな。

そう思って次に進もうとするも、何故か手が動かない。

「き」の字が、妙に目に残る。

二本ある横線のうち、下の一本だけが長く伸び、その先が思い直したように内へ曲がっている。

綺麗な字ではある。けれど、どこか落ち着かない印象を受けた。

華宮耶が自身の違和感の正体を探っていると、

「や、ここにいはった!もう。探したんえ!」

覗き窓を外側からガラリと開けて叫ぶ者がいた。

藤歌である。

「雪乃さん姉さんから預かり物やで〜」

帳場奥まで入ってきた藤歌は、そう言って一通の手紙を取り出した。

「なんや、駒ちゃんと一緒に読んでくれはれ言うてはった。」

華宮耶は、今は聞きたくなかった名前に眉を顰める。

「ほんでなぁ。駒ちゃんももうすぐここに来はるで。なんや旦那はんのところ行っとったらしいなぁ。その帰りにたまたま会うてん。そうや。旦那はんいうたらこの前な……」

脱線を始めた藤歌をよそに、華宮耶は慌てて手荷物を掴んだ。

その袂をがしっと掴んで藤歌はなおも喋り続けた。

「ほんでその舶来もんのお菓子やねんけど、あれはなんて言うんかなあ。外側はパリパリしてるんやけど……」

大和田は、すでに新しいお茶を二杯淹れている。

華宮耶が逃げ場を探してきょろきょろとしていると、

「おたのもうします。」

玄関から声がした。

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