第一話 二十一節
「堪忍え。」
千乃のお母さんが格子の間に現れたのはそれからすぐのことだった。
「ほな、早速見せてもらいましょか。」
そう言って簪の包みを受け取る。
包みを開ける千乃のお母さんの目の端が、薄っすらと赤く染まっていた。
濃く引かれた紅の下に隠れているのは、唇を噛んだ跡だろうか。
「なにか、あったんどすか。」
簪を眺めるお母さんに問うと、
「あぁ、ちょっとお衣装のことで揉めはったんよ。ようあることどす。もう解決したわえ。」
表情は変わらない。
「そうなんどすね。うちは、てっきり、辻占煎餅……」
華宮耶はわざとそこで言葉を切る。
千乃のお母さんの眉が僅かに寄る。
「の中から、『待ち人来たる』って出たさかい。なんや、旦那はんのことでええ知らせでもあったんかと思うてしまいました。」
華宮耶は咄嗟の嘘に鎌を忍ばせる。
「なんや。子供の考えることは可愛らしいなぁ。あんなもんはただの遊びやさかい。」
そう言い終える頃には、千乃のお母さんの顔はすでに元に戻っていた。
「確かに、受け取りましたえ。松一のお母さんにもよろしゅうお伝えしておくれやす。ほら、あんたも急がんと、お稽古に遅れてしまいまっせ。」
と言って話を切り上げた。
「へぇ。またよろしゅうおたの申します。」
華宮耶はそう言って礼をする間にも相手の顔から目を離さなかったが、これ以上を読み取ることはできなかった。




