第一話 十九節
翌朝、華宮耶が目覚めると、陽はいつもより高かった。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
羽根駒の布団が既に畳まれて、部屋の端に寄せられている。
起こしに来る声はない。
階段を降りて居間を覗くが、そこにも羽根駒の姿はなかった。
華宮耶は松一のお母さんの部屋の前に腰を下ろした。
お母さんは眼鏡をかけ、傍に置いたいくつかの包みと書付を見比べていた。
「お母さん、華宮耶どす。」
声をかけると、
「へぇ。どうしはったんや。」
お母さんはすぐに答えた。
「羽根駒やったら、旦那はんのところへご挨拶に行きはったえ。あ、そうや。あんた、羽根駒は今日はお稽古休ましてもらうよって、お師匠はんに言うといて。頼んだえ。」
聞いてもいないのに羽根駒のことを話し出す。
「訊いてへんし……」
華宮耶は羽根駒の名が出た途端不機嫌そうに呟いた。
「ほな、なんやの?」
ここで初めて、お母さんは書付から顔を上げた。
「なんか……千乃さんに用事おへん?うち、ちょっと稽古前に寄せてもらお思とるさかい。ついでに。」
華宮耶が包みを見ながら言うと、
お母さんは眼鏡の奥から、じとりと華宮耶を見返した。
「……何をしにいくんや?」
「手拭いを……お借りしてた手拭いを返しに行くんや。」
口から出まかせである。
それが出まかせであることは落ち着きのない視線を見れば、傍から見ても一目瞭然だった。
お母さんは、暫しの沈黙の後、
「はぁー。」
と溜息をつき、半ば呆れたように、
「まぁ、顔を繋ぐんも舞妓の仕事や。そこに包みがあるやろ。千乃さんから預かっとった簪や。直しが済んださかい、届けておくれやす。」
と言った。




