↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
舞妓探偵  作者: 掛出すみれ
雪乃編
PR
13/33

第一話 十三節

「姉さん、うちのこと押してみて。」

くるりと羽根駒に背を向けて華宮耶が言う。

「や、いやや。」

「はよ。」

羽根駒はおそるおそる、華宮耶の背をそっと押した。

華宮耶は一歩、足を出して止まる。

「な。平らなとこなら、こうなるやろ。」

「……背中押されたら、足ぃ出るな。」

「せや。押されたら人は足ぃ出して踏ん張る。やから、足首を痛めること自体は変やない。」

華宮耶は自分の足元を指した。

「でも、綾緒さんはお座敷帰りやった。ほなら履いとるはずなんや。」

「履いとる?」

「おこぼや。おこぼを履いて、八坂さんのあの石段で踏ん張れはる?」

羽根駒は答えられなかった。

「昨日のお兄さん、石段で転んだ言うてはった。手首に包帯、肘と頬に擦り傷。あっちこっち傷ついてはった。でも足首はなんともなかった。」

華宮耶は、言葉にしながら自分の考えを確かめるように続けた。

「しかも噂では突き飛ばした言うてはった。足を出して踏ん張ろうとしても、おこぼでは石段を捉えられへん。踏ん張れへんなら、身体ごと落ちる。ほなら足首だけやのうて、手ぇや顔、身体のあちこちも傷つくはずなんや。おこぼを履いて石段から突き落とされて、足首だけを悪う折り、ほかは綺麗なままなんて、うちにはどうにも変に思えるんどす。」

羽根駒は、自分のおこぼを思い浮かべた。

厚い木の底。

それを履いて、八坂の石段に立つ自分を思い描く。

上半身は誰かに押され、勢いよく前へ倒れてゆく。

おこぼを履いた足は踏み出そうとして空を切る。

着物の裾が纏わりついて、足が自由に動かせない。

手を出そうとして、袂が身体に巻き付いた。

目の前に石段の角が迫る。

羽根駒は思わず息を呑んで固く瞼を閉じた。

そこで華宮耶は、ようやく羽根駒を見た。

「な。やから、雪乃さん姉さんが綾緒さんを後ろから突き落とした。それは変なんや。」

「ほな……なんでそんな噂……」

華宮耶は羽根駒の足元から、ゆっくり顔を上げた。

「噂には、必ず口がおす。」

「口……」

「うちにはこの噂、単純なものには思えへんのどす。」

華宮耶がそう言った瞬間、羽根駒は、この花街という世界の底を覗き込む心地がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。