私の正体
「...あれ?...ここは...」
目が覚めると師匠のベッドの上だった。起き上がるとベッドの脇に積まれていた魔道具が音を立てて崩れ落ちる。
その音で私の足元でうずくまって寝ていたらしい師匠が起きた。
「...うぅ...なんの音...」
寝ぼけているのか手を空中でブラブラさせている。
「あの...おはようございます、師匠」
「......目が覚めたんだな。遅すぎだバカ」
窓の外は薄暗かった。あれから夕方まで寝ちゃってたのかな?と思っていたら、師匠がコップに水を注ぎながら言った。
「あれから三日間、眠ったまんまだったんだぞ」
「へ...三日間?」
よく見ると師匠の目の下にはくっきりクマができていた。ベッドに腰掛けた師匠から水をもらい一気に飲み干す。
「...ありがとうございます。ご心配を、おかけしました...?」
私が状況が理解できずぼんやりしていると、師匠が思い切り私のおでこにデコピンした。
「いたっ...なんなんですかもう!」
「なんなんですかじゃないだろ!あんな危険なことをして...魔力にお前の身体がついていけなかったんだ。急にあんな力を使ったら失神するだろ!」
師匠のお怒りが怖くて、私はどんどん小さくなっていった。
「だいたい、エレンなんかに縋りやがって...お前の師匠は俺だろ!」
「...縋ってなんかいません!私だって、エレン様があんなことするなんて...」
「あんなこと......?」
師匠の眉間がピクリと動き、ただならぬ怒りのオーラが見える。ジリジリと詰め寄る師匠の迫力に圧倒され、私は白状した。
「......れました。」
「あ"?」
「...だからっ!...キスされました」
「......あいつ...コロス...」
師匠は今にも魔法を使ってエレン様を呪い殺そうとする勢いだったので、私は必死になって止めた。
「...っというか!だいたいなんで師匠が私のキスのことをそんなに気にするんですか!おかしいですよ!」
「お前は俺の弟子なんだぞ!...ったく、よりにもよってエレンなんかになびきやがって...」
「なびくって...そんな言い方ひどい!エレン様は私のために協力してくれたんです!」
言い合いになり、息が上がるほど興奮したステラがベッドから落ちそうになった。すかさずルーカスが彼女の身体を支える。
「...ほら、言わんこっちゃない。まだ身体が回復していないからはやく休むんだ」
「...師匠のほうがひどい顔色ですよ...ちゃんと...寝てくだ...さい」
ルーカスに優しく頭を撫でられてステラはすぐに眠りに落ちた。
----------
「うーん!いい天気!」
すっかり体調が戻った私は、いつものように溜まった洗濯物を干していた。
「...ステラ。終わったら俺のところへ来い」
起きたばかりのルーカスが眩しそうに言う。
あれから毎日、ルーカスはステラを診察するのだ。
「...おかしなところはないか?」
「元気いっぱいです!心配しすぎですよ〜」
ヘラヘラと笑う私を見て、師匠はため息をついた。私はあれから魔法が使えなくなり、すっかり元通りになってしまったのだ。どうやら私の中にある魔力が暴走しないように、意識がない間、ずっと師匠が魔力を封じてくれていたらしい。
「師匠...心配かけてごめんなさい」
「まったくだ。お転婆な弟子を持つと苦労する」
そのとき、チャイムが鳴った。
「あれ、お客様でしょうか」
二人が玄関に出ると、エレンが立っていた。
「ステラ、この前は本当にすまなかった」
エレンが深々と頭を下げる。ルーカスが不機嫌そうにエレンを睨んでいる。
「エレン様、こちらこそすみませんでした。私が魔法を使えるようになって、嬉しくなって調子に乗ったから...」
「...あのあと、ルーカスに半殺しにされてね。君を利用して彼を宮廷に戻そうとしてたこともバレバレだった。もう君には近づかないとルーカスと約束したけど、最後にどうしても謝りたくて...あと、君の魔力についてわかったことを伝えたくて...」
「わかったこと?」
ステラとルーカスが声を揃えて言った。
「ああ。ルーカスにしごかれたあと、僕も調査したんだ。君の魔力制限を解放したとき、一瞬だけど妙な反応があったんだ。ほんの一瞬だったから、僕も自信がなかったんだけど」
エレンが一枚の紙をルーカスに差し出した。
「これは......」
渡された紙に目を通して、ルーカスはステラを見た。
「?」
エレンがステラに告げる。
「...君のように魔力があっても魔法が使えないなんてレアケースはなかなかいないから、僕も"これ"を知るまで半信半疑だった。ステラ、君はどうやらアストラリスーー、神話に現れる魔法使いの始祖の末裔のようだ」
「私が...末裔?魔法使いの始祖?」
「ああ、君が魔法を発動したときに、大地にこのマークが現れたんだ。これは、アストラリスの紋印だ」
エレンがルーカスから紙を取り、ステラに見せた。
「こんな印...見たことないです」
「当たり前だ。アストラリスはその存在自体、信じられていない太古の人物だ。この紋印も余程の魔法使いでなければ知らないものだ。...エレン、このことは」
「もちろん誰にも言ってない」
ルーカスは少し安堵したように息を吐く。深刻な様子の二人とは裏腹に、ステラは訳がわからず首を傾げた。




