突然のお客様
「うぇぇー、なにこれ」
私は干からびたトカゲのようなものを指先で摘んだ。
ルーカス・アルセルムス
ウィルトール王国でも大賢人と讃えられた彼は元宮廷魔法使い。そんな偉大な魔法使いに私は弟子入りしたのだ。
「師匠、これは捨ててもいいですか?」
「ダメだ。それは召喚で使う貴重なものだ」
私は渋々干からびたトカゲを瓶に入れる。今日はかれこれ半日、ずっとこの調子で彼の部屋を掃除している。
「もう...全然綺麗にならない!魔法を使って掃除するのは禁止って...片付ける気ないでしょ!私、魔法使えないけどっ!!」
私がぶつくさ言いながら掃除をしていると、師匠は読みかけの魔導書を閉じて私の横へやってきた。
「わっ!何ですか急に!」
私の目をじっと見つめている。顔が無駄にイイから王女様もさぞやメロメロだっただろう。でも彼に弟子入りしてわかったことがある。この人、生活能力も皆無だし、何より魔法を全然教える気がない!私のことを使用人とでも思ってるのだろうか。...そりゃあ掃除、洗濯なんでもするって頼み込んだけど。というか顔近いっ!
私が一歩引き下がると、師匠が笑いながら言った。
「......ステラ。ここに埃ついてるぞ」
彼は吹き出しながら私の鼻先についた埃を取る。
「〜っ!もう!揶揄うのはやめてください!!」
私は怒って掃除用具を握りしめたまま、「庭の雪かきをしてきます!」と飛び出した。
一人残されたルーカスが呟く。
「...今はまだ力が封じられてるだけだ。お前の"才"は俺を超える」
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降り積もった雪で一面の銀世界。王都の賑やかさはひとつもない山の麓に小さくて可愛らしい師匠の屋敷がある。
「あの大賢人がこんなところで隠居生活なんて...全然魔法を教えてもらえないし...大丈夫かなあ...」
私がしゃがんで雪だるまを作っていると、突然轟音とともに巨大な鳥が空から降りてきた。
「な、なに...?」
鳥がお辞儀をするので私もつられてお辞儀をする。鳥の背から見知らぬ男が降りて言う。
「ははっ、この子が僕以外の人間に挨拶するなんて...初めて見た。君、何者?」
「あ、あの...ステラといいます。ルーカス様に弟子入りしまして...」
「弟子!?ルーカスが君を!?」
男は私をじろじろと見つめて笑った。
「ふーん...まあいいや。ルーカスはいる?」
「はい、部屋にいます」
そう言うと男はズケズケ屋敷に入って行った。残された私は、同じく残された鳥と顔を見合わせる。
「使い魔なのかしら...こんなところまで大変ね」
撫でようとすると、勢いよく羽ばたいてどこかへ飛んでいってしまった。扉の向こうからさっきの男が「その子は自由にさせといてねー」と言うのが聞こえた。
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「ルーカス、会わないうちに随分と変わったじゃないか。まさかお前が弟子を取るなんて」
「...エレン。何の用だ。冷やかしに来たなら帰れ」
私が客人用のお茶を用意していると、師匠がものすごく嫌そうな顔でキッチンに入ってきた。
「...すまない。彼は古い友人なんだ。すぐに帰ると思うから...」
師匠が言いかけたとき、そのお客様もいつの間にかキッチンに現れてジロジロと棚を見ている。
「はー、思ったよりかはちゃんと生活してるんだな」
「エレン!」
師匠がイライラした様子で彼をキッチンから押し出そうとする。
「可愛い弟子をとったな。お前は女は懲り懲りだと思ってたが。どういう心境の変化だ?」
「...別に」
「そういえばステラに挨拶してなかったな。僕はエレン・コルヴス。宮廷魔法使いだ。よろしくな」
エレン様が私と握手をしようとすると、師匠が間に入った。
「しばらく二人だけで話したいから茶はいい」
そう言うとエレン様を連れて部屋に籠った。
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相変わらず散らかった部屋でエレンは魔導書の山を退けながらソファに座った。
「...あれだけ頼まれても弟子を取らなかったのに。僕の魔鳥も彼女には最初から懐いていたし...何者なんだい?」
「うるさい。ステラには関わるな。...で、何の用でこんなところに?」
「......宮廷魔法使いに戻ってもらえないか」
「断る。お前も知ってるだろ。毎日王女に求婚されるわ、利権絡みのゴタゴタに巻き込まれるわ...挙げ句の果てに追放された俺を戻そうなんて、都合が良すぎやしないか」
「でもお前も気づいているだろう、この国はかつてない危機に直面している。上の連中は王族の機嫌を取るばかりなのに、今も魔族の動きは活発になる一方だ。最近は王都近くでも被害が出始めた...」
「...無理だ。ここでの暮らしも気に入ってるんだ。要件がそれだけなら帰ってくれ」
ルーカスはエレンの腕を掴むとそのまま部屋から追い出した。
「...諦めないからな、ルーカス」
ドアの前で吐き捨てるように言ったエレンは、そのまま玄関に出て鳥の使い魔を召喚した。
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エレン様が帰っていったあと、私は師匠の部屋をノックした。
「師匠、私も今日はこれで...」
言いかけたとき、ドアが開いて師匠が出てきた。
「...ステラ、明日から魔法を教えてやる」
「え...!本当ですか!やった〜!!」
満面の笑みで喜ぶ私に師匠が言った。
「ただし、途中で"辞めたい"なんて吐かすなよ」
「もちろんです!」




