ステラとルーカス
ウィルトール王立魔法学院では、今日も国を担う魔法使いを育てるべく厳しい授業が行われていた。
「ステラ、この池を凍らせてみろ」
先生に言われた私は立ち上がって魔法を発動させる。池の水が一気に氷にーー、ならなかった。
「ステラのやつ、まだこんな魔法も使えないのか」
クラスメイトの笑い声が野山に響く。先生も深いため息をつく。
また失敗...つくづく自分には魔法の才能がないのだと思い知る。
先生が冷たく言い放った。
「お前には宮廷勤めの魔法使いは無理だ。魔法を磨くより薬草庫の番でもしていろ」
その日から私は魔法の授業に出ることは許されず、魔法学院の薬草庫の番をすることになった。
「この薬草...全然見つからないんだけど...」
取ってこいと言われた薬草を探しに辺境の雪山にやってきた。
「はぁ...はぁ...こんなところに草なんて生えてるわけ...」
足が重たい。猛吹雪で全く前が見えず、バランスを崩して倒れる。身体が冷たくて痛い。
もうダメだと思ったとき、一瞬にして吹雪が止む。
細かい塵となった雪がキラキラと舞って、まるでダイヤモンドが散りばめられたようだった。
「...こんなところで何をしている」
低い声がする方を見上げると、銀髪の男が立っていた。明らかに怪訝そうな顔で私を見ている。
「あなたは...」
懸命に目を開けようとするが、そこで意識が途切れてしまった。
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目が覚めると、暖炉の前のソファに寝かされていた。
「ここは...」
起きあがろうとしたとき、積み上がっていた魔導書や何かの道具が勢いよく崩れ落ちる。よく見ると、部屋中散らかっていて足の踏み場もない。
「...目が覚めたのか」
物が散乱して閉まらなくなったドアから、さっきの男が現れた。
「その制服...魔法学院のだろう。見習いの魔法使いか?こんな雪山で何をしていた」
「あの...薬草を採取しようと...」
「阿呆か。こんな吹雪の中で薬草なんて見つかるわけないだろ」
窓の外は猛吹雪だった。確かに、こんな吹雪の中で薬草を探しにきた私はバカだったかもしれない。でもそんな風に言わなくたって...。
「...助けていただき、ありがとうございました。えっと...」
名前も知らない男はコーヒーを片手に分厚い魔導書を読み始めた。
「......ルーカス。ルーカス・アルセルムスだ」
その名を聞いて私は座っていたソファからずり落ちた。この国の人間なら、誰もが知るーー、「追放された宮廷魔法使い、ルーカス・アルセルムス」
ウィルトール王国の数々の国難を、その魔法で解決した大賢人と謳われる魔法使いだ。
「な、なんでルーカス様がこんなところに...」
彼は魔導書のページをめくりながら言った。
「ここで隠居生活をしてるんだ」
隠居という言葉が似合わないほど若い。まだ三十にもなっていないはずだ。こんな凄い魔法使い、人生でもう二度と会えないだろう。この人に魔法を教えてもらえたら、私も一人前の魔法使いに...!
妄想で頭が膨らんだ私は咄嗟に「弟子にしてください!」と頭を下げた。
「断る」
「お願いします!掃除でも洗濯でも、何でもやります!魔法を...使えるようになりたいんです」
涙が出そうになるのをグッと堪える。でも、ずっとみんなのように一人前の魔法使いになりたかった。憧れの宮廷魔法使いになる夢だって諦めたくない。
彼が本を閉じて私を見た。深く考え込んでいる。じろじろと私を見てバカにしたように小さく笑ったことに腹が立ったが、頼み込んでいる身だしグッと堪えた。
「......そこまで言うんだったら、弟子にしてもいい。ただし、条件がある」
「...条件?」私はただならぬ空気に唾を飲んだ。
「...俺のことを絶対に好きになるな。無論、俺も君を好きになることはない。色恋なんぞはもうウンザリなんだ」
「...へ?」
聞くところによると、ルーカス様は宮廷魔法使いだったころ、王女から猛烈なアピールを受けていたらしい。王女に全く興味がなかった彼は無視し続けた結果、王女の怒りをかってしまい宮廷から追放されたという。
「恋だの愛だの...実にくだらない。俺はただ魔法の探究ができればそれでいいんだ。それにちょうど屋敷を片付けなくてはと思っていた。なんせ俺は忙しいから、この有様でな」
確かに部屋は人が住めるのか疑うほどに汚かった。使ったままの食器がテーブルに並び、床には古い書物が散乱していた。ルーカスは山積みになった魔導書からお目当ての本を選ぶ。
あまりにも単純な条件に私は思わず笑ってしまった。
「ふふっ...わかりました。じゃあ、よろしくお願いします!師匠!」
ルーカスはステラを見ることなく、集中して魔導書を読み始めた。
こうしてステラは追放された宮廷魔法使いに弟子入りすることになった。




