闇と手を結ぶ彼女
王女の突然の訪問に驚いたステラは、連れられるがまま屋敷から離れた小高い丘に来ていた。王宮をお忍びで抜け出してきたという彼女は護衛もつけず一人きりで、ステラと王女はしばらく無言のまま、静かな山並みが二人の間にそびえていた。
「あの...王女様、先日お話しした師匠とのことなのですが」
ステラが意を決して伝えようとしたとき、王女が振り向く。その目からは今にも怒りの涙が溢れんばかりで、初めて会ったときの彼女とは全く別人の表情だった。
「実はあの後、貴女のことを調べさせていただきました。魔法使いなのに魔法が使えないんですってね。...それなのに、ルーカス様は貴女のことが......ルーカス様とはなんでもないって仰ってたのに...勝手に安心して馬鹿みたい...どうして...どうして貴女がっ...」
そう言って王女は持っていた手鏡に映るステラとルーカスの姿を見せる。仲睦まじく市場で買い物をする二人、路地裏でこっそりキスをしているーー、
「王女様!あの日お伝えしたときにはこんなことになるなんて思ってなくてーー、」
ステラが必死に説明しようとしたそのとき、涙を流しながらも不穏な笑みを浮かべた王女が懐から鈴を取り出した。
「私はルーカス様のことを諦められないの。どうか消えてちょうだい」
チリン......
王女が鈴を鳴らすと、ステラは一瞬にして深い森の奥にいた。
「ここ...どこ...?...王女様?」
辺りには誰もおらず、木々が生い茂る森林は昼間だと言うのに薄暗い。不気味な雰囲気が漂う森の中を、ステラは躊躇いながら進んでいく。
「誰か...」
静寂のなか、ステラが立ち止まると恐ろしい気配がした。暗い木陰から人影が現れる。でも彼は、人間ではない。
「魔族...っ」
ステラが走り出そうとした瞬間、髪の毛を掴まれて地面に押さえつけられる。
「お前か...王女が始末しろと言ってきた人間の娘は...」
状況が全く理解できず、必死に抵抗するステラの頭を魔族がさらに強く押さえつけた。
「王女様が...?どういうことなの...」
「大魔女ユラ様はウィルトール王国の王女と仲がよろしくてな。王女の恋路を応援するために魔法の手鏡と鈴をお与えになったらしい。我ら魔族の力を使ってお前を消す計画というわけだ」
「......そんな...うゔっ」
ステラの身体を片手で乱暴に持ち上げると、魔族の証である紅い瞳が彼女をまじまじと見つめる。魔族が手を振り下ろすと、彼女の身体はまるで無数の矢が降ったように全身に傷を負った。
「......ゔ...」
「ふむ、このまま殺すのは勿体無い。こんな小娘でもいいカラダをしているじゃないか...」
「...し...しょ......」
ルーカスの顔が思い浮かぶ。王女が言ってた通り、魔法も使えない自分があんなにすごい魔法使いの弟子だなんておこがましかったかもしれない。
ステラの涙が頬をつたって地面に落ちた。
その瞬間、あのときの感覚を思い出す。自分の中から、何か得体の知れないものが他のものに伝わる感覚ーー、エレンにキスで魔力を引き出されたときの。
次の瞬間、地面に大きなアストラリスの紋印が浮かび上がり、ステラの身体が眩い光に包まれた。
「な、なんだこれは...」
魔族は呆気にとられていたが、ステラの身体に触れていた手が瞬時に消え去り、唸り声をあげる。後ずさった魔族の身体はそのまま光に包まれて消滅した。
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宮廷では、エレンが怒るルーカスをいなしていた。間の悪いことに、エレンとステラが恋人であるという嘘の噂を耳にしてしまった彼は今にも人を刺すような目で足早に回廊を進んでいた。
「ルーカス、すまない...お前とステラのことを考えたらすぐにでも宮廷内の噂を正したいところなんだが...今本当のことを明かしたら王女が...」
エレンが後ろから小走りに弁明したとき、突然ルーカスが立ち止まる。
「...?ルーカス?どうした......」
「っ...今一瞬、ステラの魔力を感じた...」
ルーカスが即座に陣を引き辺境の屋敷へと消えていった。残されたエレンは訳が分からず立ち尽くす。
「え...?ステラの魔力って......」
何かを察したエレンは、魔鳥を召喚しそのまま空へと飛び立った。




