雲は暗く、星は見えず
「...じゃあ、行ってくる」
「はい、お気をつけて。今晩は師匠が好きなシチューを作って待ってますね」
辺境にある屋敷の玄関先で、ステラはルーカスを見送っていた。今日は宮廷で五年に一度の星詠の儀がある。大陸中から招集された大魔法使いたちが世界に起こる吉凶を予見する儀式だ。ルーカスは宮廷を追放されているものの、ウィルトール王国で彼に匹敵する魔法使いは存在しないため、勅命を受けて儀式に出ることになった。
「...はぁ...行きたくないな...」
ルーカスがステラの肩に頭を埋めた。
「そんなこと言って!星詠の儀に出るなんて、とんでもなくすごいことなのに...お勤め頑張ってきてください」
ステラが笑いながらルーカスの肩を叩くと、彼はものすごく嫌そうな顔をしながら呟いた。
「......別に俺は世界がどうなろうとお前といられればそれで......」
「?」
言っていることが聞こえずに首を傾げたステラに、ルーカスはキスをした。
「...行ってくる」
そう言うと魔法を発動し、風に包まれて一瞬にして消えていった。
ひとり残されたステラは顔を真っ赤にして、いそいそと屋敷の掃除に取りかかった。
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宮廷に参内したルーカスは王宮に隣接する大神殿で星詠の儀に挑んでいた。各地から集められた数名の大魔法使いとともに、時間をかけて中央にある大鏡に魔力を流し込む。
最後のルーカスの番になり、彼が魔力を流し込むと大鏡が光り出し、反射した光が神殿の天井に文字を映し出した。
『 星堕ちしとき世界は眠り、刻は巡らず永遠に止まる 』
「星...?」
ルーカスが呟いた。その瞬間、大鏡の光が増しピシッという音とともに鏡に大きな亀裂が入った。ズズッと地鳴りがしたかと思うと文字は消え、神殿内は静まり返る。
儀式を取り仕切っていた魔法省の宮廷魔法使いたちが現れ、急ぎ予言を国王に知らせに行った。
「ルーカス...!今日招集されたのは知っていたが、まさか宮廷に来るとは...」
ルーカスの姿をとらえたエレンが足早に彼に駆け寄った。
「来なかったら辺境の屋敷を国軍が取り囲むと脅されてな...無視して蹴散らしてもよかったが、ステラがいる。あいつに何かされたら......」
「そうだったのか...あれだけ嫌がってた宮廷に来るなんて......国も必死だな。というか、あの予言はなんだ?鏡は割れるわ、地鳴りはするわで外に待機してた宮廷魔法使いも混乱してるぞ」
「さあな。...もう儀式は終わったんだし、帰らせてもらう」
ルーカスが大神殿を出たとき、初老の宮廷魔法使いが彼に話しかけた。
「ルーカス殿!お久しぶりですな!弟子をとられたと聞きましたよ、なんでもエレン殿の恋人だとか...」
「........は?」
ルーカスが怒りのオーラを纏い振り返ると、青ざめた顔のエレンが立っていた。
「...あ、やばい......」
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ステラは庭の花に水をやっていた。
「今ごろ儀式の最中よね...宮廷ってことは...」
ステラの脳裏に先日の王女の顔が浮かんだ。エレンと恋人であると偽ってしまったことを後悔していた。ルーカスと気持ちが通じあったことで、結局王女を騙していることになってしまった。
「...どーしよう......」
ステラが深いため息をついたとき、背後に人の気配を感じた。振り返ると、そこにはあの王女が立っているではないか。
「...ご機嫌よう、お弟子さん」
「お、王女様!?どうしてこんなところに...!」
ステラは驚いて立ち上がり、深くお辞儀をした。
「お弟子さん。少しお時間よろしいかしら」
王女は微笑むが、その笑顔は真に笑っていなかった。




