王女との謁見
「前回までのあらすじーー、
魔法が使えない魔法使い、ステラはひょんなことからウィルトール王国最強と謳われた元宮廷魔法使い、ルーカスと出会い、彼に弟子入りする。
弟子入りの条件は「ルーカスを好きにならないこと」、彼はかつて、王女から執拗なアプローチを受けたことで恋愛に辟易していた。
ステラが魔法使いの始祖、アストラリスの末裔と判明し混乱するなか、ルーカスとステラは互いに特別な感情を抱きはじめていた。
そんな中、ルーカスに執着していたというウィルトール王国の王女から王宮に召し出される。
一体、どうなるのか!?」
「...ちょっとエレン様、ふざけたあらすじ解説やめてください。全然ふざけられる空気じゃないんですけど...」
張り詰めた空気に身が固まるステラの手を繋ぎ、エレンは呑気に王宮の廊下を歩いていた。道ゆく魔法使いとみられる人たちが、全員立ち止まってエレンにお辞儀をする。
「エレン様って、もしかしてとても偉い魔法使いなんじゃ...」
「まあ、そこそこね。ルーカスが現役だった頃よりは全然下っ端だけどね。ウィルトール王国は国王直属の宮廷魔法省っていうのがあって、そこが宮廷魔法使いたちを管理してるんだ。だから、実質的なボスは国王なんだけど、一部の凄腕魔法使いーー、ルーカスのような奴らは国王と同等くらいの権力がある」
「へぇ...今まで宮廷魔法使いに憧れてたのに、何にも知りませんでした」
「最近では魔法を使える人間の数もだいぶ減ったからね。ステラが魔法を使えなくても魔法学院に入学できたように、魔法使いを増やしていこうと宮廷魔法省も必死なんだ。宮廷魔法使いになれるような一流の魔法使いは稀少だからね」
二人で廊下を突き進んでいくと、王族との謁見の間にたどり着いた。入口に立つ兵が中に向かって告げた。
「宮廷魔法使いエレン・コルヴス様と、ステラ様が参られました」
エレンとステラは腕を組み、そのまま中に進んだ。華美な装飾の施された広間には、王女が座っていた。
「...あら、わたくしはルーカス様のお弟子さんをお呼びしたはずですけど...」
美しいドレスを見にまとった女性がこちらを見る。ふわふわのカールがかかった美しい金髪、ガラスのようにキラキラ輝く大きな瞳、透き通るような色白の肌。予想以上に麗しい王女の姿に、ステラは息を呑んだ。こんなに美しい人に求婚までされて、応えなかったルーカスの気持ちがわからないほどだった。
「はい。私がルーカス様の弟子、ステラです」
「王女様、実は彼女は私の恋人でして...今日は突然王宮に召し上げられたため、心配でついてまいりました」
エレンが事前の打ち合わせ通り嘘をつく。
「エレン殿の恋人...?......そうだったの。ルーカス様が大層お気に召した女性と聞いていたから、どんな人かと気になっていたの。エレン殿の恋人だから、ルーカス様も弟子にとったのね」
安心した様子の王女は椅子から立ち上がり、階段をゆっくりと降りて二人に近づいた。
「もう聞いているわよね、わたくしのこと...ルーカス様に一目惚れして、ずっとあの方と結ばれたいと思って...。でも初めての恋で、ひとりで突っ走って嫌われてしまって...フラれて泣いていたら、事の顛末を知ったお父様がルーカス様を宮廷から追放してしまったの」
王女の話にステラとエレンは顔を見合わせた。ルーカスを憔悴させるほどつきまとい、自分の気持ちを押し付ける悪女のイメージだった王女ではない。目の前にいるのは、ただの恋する乙女だった。
「ルーカス様に女の子のお弟子さんができたって聞いてから気が気じゃなかったけど...エレン殿とお付き合いしている子だったなんて、よかった。私にもまだチャンスはあるかしら...」
そう言って笑う王女を見て、ステラは胸がツキンと痛んだ。自分がルーカスを想う気持ちには、蓋をしたはずだ。彼を好きになったら、弟子でいられないのだから。そうなったら、彼の側にいられる理由がーー、なくなる。
「王女様。ルーカス様は宮廷を追放されてから、悠々自適に生活しています。散らかった部屋で寝食を忘れるほど魔法漬けの日々です。...私は、弟子と言ってもそんな彼の生活をサポートするお世話係のようなもので...王女様が心配なさるような間柄ではありません」
真っ直ぐな目で告げたステラに、王女は目を潤ませた。ステラの隣では、エレンがなんとも言えぬ表情をしていた。
「...そうでしたか。今日は突然呼び出してごめんなさいね、お弟子さん」
そのまま謁見が終わり、エレンとステラは王宮の片隅で息をついた。
「はぁー、なんともなくてよかったな」
「はい、王女様があんなにお綺麗な方だとは...それに師匠が宮廷を追放された理由も...」
「聞いてた話と違ったな。ルーカスのあの様子を見る限り、アプローチの仕方がかなりまずかったんだろうな。ただでさえ女性に言い寄られるのが苦手な奴だから...」
「エレン様が恋人だと偽らなくても、なんとかなったんじゃ...」
「俺もあんな経緯だったとは知らなくて...ゴメンな。しばらくは宮廷内で噂になるかもしれないが、どうせすぐ収束するだろうから」
「いえ、私よりもエレン様のお立場が悪くならないか心配で...恋人がいるなんて噂が広まってしまって...私のために嘘をついてくれたのに、もし嘘だとバレたら...」
「大丈夫、なんとかするさ。あ、でも流石にバレて処刑とかになったら、本当に恋人になってくれる?」
「...ふぇ!?そ、そんなこと...」
顔を真っ赤にして困るステラに、エレンは笑った。
「ははっ、冗談だよ。さあ、辺境まで帰ろうか」
そう言ってエレンは魔鳥を召喚した。




