【番外編】願い事
「うーん...どれにしよう...」
今日は王都まで師匠と二人で買い物に来ている。私は市場の青果店で林檎を見定めていた。
「どれも同じに見えるが...」
師匠が待ちくたびれた様子で、店のカゴいっぱいに詰まっている林檎に手を伸ばす。
「もー、どうせ買うなら甘いやつがいいんです!師匠ったら、食材の買い出しに一緒に行きたいなんて言うからビックリしたのに、魔導書ばかり買って...こんな時間になっちゃいました」
プンプン怒るステラの様子に笑いながら、ルーカスは空を見上げた。さっきまで真っ青だった空も、今はオレンジ色になってきている。
ステラは代金を払うと、店の前で立っているルーカスに声をかけた。
「師匠?どうしたんですか?...空に何か?」
「ほら、あそこ。一番星」
「本当だ!綺麗ですね!」
二人で見上げたオレンジ色の空に、星がひとつ輝いていた。
「師匠、知ってますか?一番星を誰よりもはやく見つけた人は願いが叶うんですよ」
ウキウキと語るステラに、呆れた顔のルーカスは言った。
「なんだそれ...ただの迷信だろ」
「何事も信じてやってみないと始まりません!ほら師匠、願い事してください」
ステラの勢いに押されたルーカスは自分の願いを考える。
「俺の、願いはーー」
ルーカスはしばらくステラを見つめたあと、口元が緩んだ。
「...なんでもない」
そう言って笑う彼に、ステラは首を傾げた。ステラが持っていた買い物袋を、ルーカスが持って歩き始める。そんな彼のあとを追い、二人で並んで帰路に着く。
「今日の夕飯は師匠の大好物のシチューです」
楽しげに歩くステラを見て、ルーカスは不思議な感覚に陥った。あれほど女性からの好意が煩わしかったのに、彼女にはこの笑顔のまま自分の側にいてほしいーー、なんて自分勝手な願いだろうと自嘲気味に笑った。
「何言ってんだ、シチューはお前の好物だろ」
「えー?師匠も美味いってパクパク食べるくせに」
イタズラっぽく笑う彼女の上に一番星が輝く。
ルーカスはステラとの穏やかな時間がずっと続くように一番星に願ったのであった。




