一緒に住む?
「すっかり良くなってよかったですね!」
ニコニコ笑いながら朝食の支度をするステラに、魔導書を読むルーカスが「...ああ」と言った。
ステラへの自分の気持ちが、少なからず特別なものだと気づいたルーカスは、魔導書を読んでいてもその内容は全く頭に入っていなかった。
「でも、師匠も風邪引くと案外甘えん坊で可愛いとこあるんですよ!覚えてますか?」
ステラがイタズラっぽく言うと、ルーカスはあのときの自分の言動を思い出した。
「...覚えてない」
悟られないように素っ気なく言ったが、バッチリ全部覚えていた。ステラを自分のベッドに引き込んで、抱きしめたまま眠ってしまったーー、あのときを思い出してルーカスは耳が熱くなった。
「そ、そっか〜!でも師匠、病み上がりですから無理は禁物ですよ!」
そう言うと彼女はこんもりルーカスの皿に食事を盛り付けた。
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「ちょっと用事があるので午後は出かけますね」
ステラは太陽が反射する窓を拭きながら言った。
「...用事?なんの?」
ルーカスが読んでいた書物を閉じて彼女の方を見る。
「うーんと...魔法学院のことで!休学扱いになっているらしいんですけど、魔法が使えるようにはならないし辞めちゃっていいかなって」
咄嗟の嘘だった。ステラは薬草庫の番を命じられたときに学院から除籍処分を受けていた。
「師匠のお家に通うようになってから、魔法学院にも長らく行けてないですし...ちゃんと退学届を出してこようと思います」
「...ふーん。じゃあ王都からこの辺境に通う意味もないし、ここに住めば?」
「...へ?」
「いやだから、今まで学院に通うために王都に住んでたわけだけど、辞めるんだったら...」
「いいんですか?私が、ここに住んでも...」
驚きながらも喜ぶステラに、ルーカスも照れ隠しで魔導書をパラパラと開いて読むフリをする。彼が小さな声で言った。
「...いいよ」
ステラは初めて「私はここにいて大丈夫だ」と思える居場所をもらったような気がした。父も母もおらず、養子に入った家では魔法を使えない自分など要らない存在だった。魔法学院に入学すると同時に、家を出て一人きりで暮らしていた。そんな自分が、唯一見つけた居場所。
「ありがとうございます、師匠」
そう言って笑って涙する彼女が、ルーカスにはとても儚く、美しく思えた。
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森のはずれでエレンが魔鳥と共にステラを待っていた。
「遅くなってごめんなさい!」
息を切らしたステラがやってくる。ローブのフードを目深に被り、人目を気にしている。
そう、これから宮廷に向かうのだ。
「...ルーカスには、言えないよね。君が宮廷に行くって言ったら彼も絶対ついてくるだろうしね」
「どうでしょうか...師匠は宮廷を追放されていますし...あれほど面倒事が嫌いな人ですから...」
「そうだな、確かにルーカスは煩わしいのが嫌いだ。でも、君はもう彼の"特別"になり始めていると思うよ」
そう言って笑うエレンの手を取り、ステラは魔鳥に乗る。
上空に羽ばたく鳥の背に乗って、ステラは思い出していた。おでこにキスされたこと、抱きしめられたことーー、しかし出会ったときの「絶対に彼を好きにならない」という条件が思い出される。
「好きになったら、あの人の弟子ではいられなくなってしまう」
ステラは自分の高鳴る胸に蓋をした。




