最終話 ヒーローとなった凸凹コンビ
新鮮なサッキン草を手に入れたフラットとワイズは、モールベア生息域の山を降りると、リースの家に急いで向かった。2人が到着した時には、早朝の日が既に昇っており、フラットが夜中に家からいなくなっていたことで、食料雑貨店の近所は大騒ぎ状態だったが、今、それに構っている暇はない。
フラットとワイズが駆け込むように花屋の住居部分に上がり、花に囲まれた部屋に入ると、テンド司祭が夜通しの付きっきりで、胸斑病に冒され昏々と眠るリースの看病を続けていた。症状の緩和を試みるため回復魔法を継続的にかけていたらしく、多大な魔力を消費した司祭テンドの顔色は、明らかに優れず、疲弊している。
「ここまでは持ったが……ん? おお! フラットか! どこへ行っておったんじゃ? お前の母を始め、皆が心配どころではなかったぞ? それはそうと……」
フラットの姿を目に認めたテンドは、柔和な表情で安堵していたが、ワイズの方を向くと正反対に形相を変え、
「丘の上の変人が何をしに来おった! お前が入ってよい場所ではない! 出ていけ!」
と、大喝を発した。高位の聖職者であるテンドは、変人学者ワイズと非常に仲が悪く、その度合はフラットが間を取り持とうとしても、どうにもできないほどだ。
「回復魔法をかけ続けていたのは褒めてやるが……老いぼれは黙ってろ」
ワイズは司祭テンドの怒鳴りつけに冷たくそうとだけ返すと、後は全く無視を決め込み、借りたすり鉢でサッキン草をすりおろす。すりおろしたサッキン草は、緑色の粘り気のある状態に変わり、その糸を引く粘りは、自然薯をとろろにしたときに出るものとよく似ていた。
「フラット。斑紋が出ているリースの胸に、サッキン草を塗りつけろ」
「塗りつけるって……このネバネバをリースの胸にか!?」
ワイズからいきなり思わぬ指示が飛び出したことで、フラットのみならず傍で様子を見ていたテンド司祭も目を丸くしたが、
(リースを助けるためだ)
と、多感な少年は意を決し、右手ですりおろしたサッキン草をつかむと、リースの胸の斑紋目掛け、ネバネバの特効薬を塗りつけた! 助けるためとはいえ、リースの胸を触っているフラットは妙な感じになっていたが、塗りつけたサッキン草の薬効成分により、胸の赤い斑紋は立ちどころに消え、眠り姫はついに目覚める!
「!!!??」
目を覚ましたリースは、フラットがなぜか自分の胸を弄っているのにすぐ気づき、顔を真っ赤にすると、
「何してんのよ!?」
パンッと、フラットを平手打ちにしてしまった。
幼馴染の女の子からきつい一発をくらったフラットは、
(助けてやったのに、これかよ……でも、治ってよかった)
複雑な心境を持ちつつ、リースに力ない笑顔を見せている。
リースは、心配そうな眼差しを向けるその笑顔と、胸に塗られたサッキン草を見て、フラットが胸斑病を治してくれたことに気づき、
「怖かった……」
泣きそうな顔でそう呟くと、自分を助けてくれた幼馴染のヒーローに抱きついた。
フラットはリースを助けられさえすればよかったのだが、結果的に、クライムランドの風土病である胸斑病の感染経路と治療方法を、ワイズと共に発見したこととなった。
そして、リースが胸斑病から快癒した後日。
英雄的な功績をあげたワイズとフラットは、クライムランド国王から表彰され、城の謁見の間で望みの褒美を受領している。
ワイズが望んだ褒美は王立図書館での自由な文献調査権と、研究資金であり、
「研究には、金と知識が必要だからな。ありがたく頂いておくさ」
いつにない整った身なりで国王と謁見した後、フラットにそんな軽口を叩いていた。
フラットも褒美として、多額の報奨金を国王から受領し、
(この金で母さんに楽をさせてやろう)
と、謁見の間を去る際、殊勝な孝行心を芽生えさせていた。食料雑貨店の跡継ぎとして自覚ができてきたのだろう。冒険は人を成長させるものだが、フォルテは一人息子の良い友人であるワイズに、感謝しなければならないところだ。
「フラット、今朝は早起きね。ふふふっ、ちょっとはしっかりしてきたのかしら」
ある朝のこと。すっかり元気になったリースが、からかい半分に、食料雑貨店の軒先へ出てきたフラットをいじっている。
誰に渡すのかは分からないが、リースの手には、コスモスの花束が握られていた。
その花言葉は『乙女の真心』。




